将来の返済が心配だから、なるべくなら奨学金は使いたくないと思っていても、大学生のうち55.0%が奨学金を利用しています。(令和4年度学生生活調査結果)およそ2人に1人の割合で利用していることになります。
例えば、日本学生支援機構の奨学金(給付型・貸与型)は、高校3年生の4月下旬には案内が始まり、5月に申込みが締め切りとなります。民間団体の奨学金でも、大学の入学前に応募が締切になる給付型の奨学金が多数あります。早めに情報収集してアクションできる体制を整えておかないと、受験が近づいてからでは間に合わないこともあるので注意が必要です。(日本学生支援機構の奨学金は、高校生3年生の5月にいったん申し込みをして、進学時に申し込み内容を変更・辞退することもできます)
この記事では、1年生のうちから希望の学校をしっかり目指せるよう、奨学金の概要をまとめました。将来、奨学金を利用するかどうからわからないなら、まずは大まかな制度や種類をしっておきましょう。経済的な理由で進学をあきらめたり、進路を変えたりするのは最後の手段です。
- 奨学金を使うかどうかわからないなら、とりあえず奨学金の情報を集める
- 高校1年生から情報を集め、高校3年生になったらすぐにアクションを起こす
- 返済不要の「給付型奨学金」の利用方法をしっておく
奨学金とは
経済的な理由で、希望する進路をあきらめないよう学費を支援してくれる制度です。収入や成績など、一定の要件をクリアすれば受け取れます。国の制度である日本学生支援機構以外にも、独自に設けている学校や各自治体、民間企業などの各種団体がさまざまな奨学制度を設けています。
令和元年度奨学事業に関する実態調査では、1,521の学校、1,100の地方自治体、1,188の民間団体が独自の奨学金を実施しています。
給付型と貸与型
奨学金は、返済義務のない「給付型」と返済義務のある「貸与型」の2通りがあります。さらに日本学生支援機構の場合「貸与型」は、利息のない「第一種奨学金」と利息のある「第二種奨学金」の2種類にわけられます。自治体など他の奨学金は、貸与型であっても利息のないものが多いようです。
以降は、日本学生支援機構の奨学金制度についての概要です。※2024年5月6日時点
給付奨学金
給付型なので返さなくてもよい奨学金です。学力基準(全履修科目の評定平均値3.5以上の成績)に加えて、家族構成や親の働き方による収入基準が細かく決められています。
上記の収入基準の他に資産基準もあり、現金や預貯金、有価証券が合計2,000万円未満であることも条件となっています。(生計維持者が父母の場合)また給付が決まっても4つの区分ごと、かつ進学先や通学方法によって、受け取れる金額が異なります。
第一種奨学金
給付型と同様学力の基準については、原則3.5以上(全履修科目の評定平均値)の成績が必要です。家計の基準については、世帯の人数や所得に応じて下記のように(黒太字部分)なっています。
利息のない第一種奨学金の支給額については、下記の通りです。
給付型と併用になる場合は、学費が免除されるので第一種奨学金が調整され、記載金額より少なくなります。
第二種奨学金
第二種は利息がある奨学金です。学力の基準については、具体的な数値が明示されておらず平均以上であること、得意とする分野があることなどとなっています。利息があるので、第一種より基準が緩くなっています。家計の基準については、下記のように(黒太字部分)なっています。
金利の上限は3.0%と制限されています。※2023年11月時点1.005%(参照:2022年1月時点0.268%)
第二種奨学金の支給額については、月額20,000円〜120,000円(10,000円刻み)の範囲で選択できます。私立大学の医・歯学の課程の場合、120,000円に40,000円の増額が可能となります。
教育ローンとの違い
奨学金は、学生本人がお金を借ります。返済義務がある場合は、卒業してから毎月借りたお金を返し始めます。申込みは決められた期間内に行う必要があります。
いっぽう教育ローンは、保護者や親権者がお金を借ります。いつでも申込みはできますが、金利が高めですぐに返済が始まります。教育ローンには大きくわけると、国が貸し付ける「日本政策金融公庫の商品」と「民間の金融機関が販売する商品」の2つがあります。
どうしても教育ローンを使いたいなら、利率が低く、審査がゆるいので日本政策金融公庫から検討しましょう。
学費と生活費で年間182万円
大学の授業料だけで平均106万円、その他課外活動やアパートなどの家賃、食費など含めると年間に182万円かかります。進学先や通学の方法によってもさまざまですが、学費よりも生活費のほうが高くなるケースを想定しておくことも重要です。下記は1年間にかかる費用の目安です。
自宅外から通う場合は、費用の一部を仕送りでまかなっています。直近のデータによると平均月額89,300円となっており、そのうち家賃は69,700円です。家賃の占める割合がとても多くなっています。
返済計画
卒業後に返済が始まることを想定して、あらかじめ借りる前にシミュレーションをして毎月の返済額を知っておきましょう。。借りる金額や返済期間によって、毎月の返済額は異なります。
日本学生支援機構の奨学金貸与・返還シミュレーション
例えば、第二種奨学金を毎月30,000円、4年間借りると、卒業してから13年間で月々9,851円を返すことになります。ちなみに、貸与終了時点の利率が適用されますので将来の金利によっては返済額が増える可能性があります。
給料があるから、それくらいの金額ならと思われるかもしれません。しかし、社会人になってから10〜15年の間は結婚や出産、子育てなどイベントが盛りだくさんになる可能性があります。
では、将来の収入はどのくらい見込めるのでしょうか?令和元年度のデータですが業界ごとの平均値です。参考にしてみてください。今後は物価上昇や人材不足にともなって、若年層の給与は上昇傾向と思われます。就職先の業界や企業をしっかりと調べておくことによって、将来の見通しが立てやすくなります。
生活費についても確認してみましょう。
消費者庁によると、30歳未満の単身世帯1ヶ月あたりで支出する額は下記のようになっています。男女ともおよそ月額16万円です。収入も支出も平均額なら、ほとんど手元に残りませんね。将来の働き方やライフスタイルをふまえての仕事をする業界、進学先を考えると、なおよいかもしれませんね。
単身世帯30歳未満男性 | 単身世帯30歳未満女性 | |
食料 | 38,347 | 27,952 |
住居 | 39,118 | 42,447 |
光熱・水道 | 7,882 | 8,486 |
家具・家事用品 | 3,083 | 2,410 |
被服及び履物 | 5,124 | 9,114 |
保健医療 | 1,195 | 3,294 |
交通・通信 | 21,859 | 28,510 |
教育 | 30 | 819 |
教養娯楽 | 24,971 | 19,638 |
その他の消費支出 | 14,010 | 19,139 |
総支出 | 155,619 | 161,811 |
滞納するとブラックリストへ登録
借りる前に必ず知っておきたいことは、まず3ヶ月滞納すると個人信用情報機関(通称ブラックリスト)に登録されます。一旦登録されると、奨学金を返済しても5年間はデータが消えず、クレジットカードの作成や住宅ローンが組めなくなる可能性があります。
まずは、回避するために「減額制度」「返済期限猶予制度」があることを把握しておきましょう。
申込み前からこれらの制度を知っていた利用者の割合は、延滞者の6倍となっています。つまり、回避方法を知らないと、延滞をしたあとに案内をもらってからの対応となり、最悪の場合はブラックリストに登録されてしまう可能性が高いということです。
月々の返済額を少なくする(減額返還制度)とは・・・毎月の返還額を減額して返還することができます。
減額返還制度は、災害、傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難な方の中で、当初約束した割賦金を減額すれば返還可能である方を対象としています。
引用元:日本学生支援機構 月々の返還額を少なくする(減額返還制度)
一定期間、当初約束した返還月額を減額して、減額返還適用期間に応じた分の返還期間を延長します。毎月の返還額を減額するため、無理なく返還を続けることができます。
願い出るためには、提出いただく証明書が、一定の要件に合致しなければなりません。
1回の願出につき適用期間は12か月で最長15年(180か月)まで延長可能です。
返還を待ってもらう(返還猶予制度)とは・・・返還期限の猶予を願い出ることができます。
災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合は、延滞する前にすみやかに手続きをおこなってください。
引用元:日本学生支援機構 返還を待ってもらう(返還期限猶予)
申請にはマイナンバーおよび所定の書類の提出が必要です。審査により承認された期間については返還の必要がありません。適用期間後に返還が再開され、それに応じて返還終了年月も延期されます。 ただし承認されない場合は返還を継続する必要があります。
※返還期限の猶予は、一定期間返還期限を延期する制度であり、返還すべき元金や利子が免除されるものではありません。
※将来への負担を少しでも軽くするために、通常割賦金を減額して返還する「減額返還制度」のご利用をおすすめします。
ユニークな返済不要の奨学金
各大学、民間企業などが多岐にわたりユニークな奨学金を設けています。日本学生支援機構の奨学金は他の奨学金との併用に制限がないので、早めに情報を収集しておくとよいでしょう。
「大学・地方公共団体等が行う奨学金制度」はこちらから検索できます。
慶應義塾大学 | 学問のすゝめ奨学金 | 首都圏以外から入学を希望する成績優秀者が対象 成績と所得の条件を満たせば、年間60万円(医学部90万円)支給される 対象者は550名以上 申請期間は高校生3年生の10〜11月 |
早稲田大学 | めざせ! 都の西北奨学金 | 首都圏以外から入学を希望する成績優秀者が対象 成績と所得の条件を満たせば、年間45万円〜支給される 対象者は約1,200名 申請期間は高校生3年生の10〜11月 |
沖縄県 | 県外進学 大学生奨学金 | 沖縄県の高校生が県外の難関大学等への進学を促進する制度 指定された大学へ合格すると入学支度金最大30万円、月額7万円が支給される 採用予定者25名以内 家計支持者の前年の収入から必要経費、特別控除額を差し引いた額が4人世帯の場合、おおむね597万円以下 |
㈱キーエンス | キーエンス財団 | 経済的な支援を必要とする学生が対象 月額10万円が4年間支給される 募集人数は600名程度 申込み締切が4月初旬で、選考には小論文の提出が必要 |
日本コカ・コーラ㈱ | コカ・コーラ 教育・環境 財団 | 成績と所得の条件を満たせば、月額2万円支給される 対象者は20名 小論文の選考後に面接の試験がある 採用後は財団の指定する行事などへの参加義務もある |
民間企業の奨学金については、就職が有利になるわけではありませんが、条件がクリアできそうなら業界やその会社とのつながりが深まるので興味があるところへ、積極的にアプローチしてみることもよいのではないでしょうか。
注意点としては、奨学金の返済義務がなくても、課題の提出や行事への参加、就職の制限などある場合があります。しっかりと募集要項を確認しましょう。
まとめ
奨学金の返済は将来の負担になりますが、受験が近づいてからでは申込みが間に合わない制度もあります。日本学生支援機構の奨学金は、高校生3年生の5月にいったん申し込みをして、進学時に申し込み内容を変更・辞退することもできます。また返済義務のない奨学金も多数あるので、まずは高校に入学したら一通り奨学金に関する情報収集を心がけましょう。
そして借りる場合のシミュレーションをして、返済額がどのくらいになるかを親子で確認することもお忘れなく。将来の自分の働き方(業界や職種の収入条件)を考えて、借りる奨学金の適正な額をある程度つかんでおきましょう。
また大学、自治体、各種団体などが独自に設けている、返済の必要がない奨学金制度も視野に入れて家計への負担を最小限にすることがポイントです。