近年、SNSやキャッシュレス決済が普及し、「対面でのやり取りがなくても買い物ができる」「興味がある商品が簡単に手に入る」といった利便性が進化しました。しかし、その影響で消費者トラブルも増加しています。この記事では、日常の事例を基に中学生が楽しく学べる消費者教育のポイントを紹介します。授業にプラスアルファの工夫をしたい教職員の方々にぜひご活用いただきたい内容です。
消費者教育の目的
消費者教育は、生徒が「賢い消費者」としての基礎知識を身につけ、自立に向けた「判断力」と「行動力」を養うための教育です。法改正やデジタル技術の進化により、中学生期から基礎的なリテラシーを学ぶ必要性が高まっています。つまり、賢い消費者としての知識(=生きる力)を身につけていくことです。

身近に感じるトラブル事例
独立行政法人国民生活センターの報告書によると、18〜19歳のトラブルで最も多いのは脱毛エステやSNS関連の金銭被害です。これらは「楽して稼ぎたい」「美しくなりたい」といった欲求を悪用する手口が背景にあります。中学生にとっても、自分に関係ある問題として理解しやすい事例です。

1位の「脱毛エステ」では、「体験で店舗へ行ったところ、全身脱毛の説明をしつこくされて契
独立行政法人国民生活センター 18歳と19歳の消費者トラブルの状況‐成年年齢引下げから1年‐(2023年5月31日)
約してしまった」「解約の電話をしているが繋がらず、メールを送っても返事がない」「契約し
た脱毛サロンが倒産したが、請求が続いている」などの相談が寄せられています。
問題発生時の対応策
消費者教育の原点は「被害に遭わないこと」はもちろん、「被害に遭ってしまったときの対処方法」の2つを学ぶことです。財布やスマホの紛失・盗難を例に、以下のような質問を授業で投げかけてみましょう。
「財布」を落とした、もしくは盗まれたら、どうしますか?また被害を最小限におさえるためには、どのような事前対策が必要ですか?
(以下、回答例)
・警察に連絡する(紛失、もしくは盗難届けを出す)
・財布のなかには、必要以上のお金を入れない
・財布の中に何が入っていたかを覚えておく、もしくはメモしておく
・財布の中に入っていたクレジットカードや身分証明書などの利用停止届けをする
「スマホ」を落とした、もしくは盗まれたら、どうしますか?また被害を最小限におさえるためには、どのような事前対策が必要ですか?
(以下、回答例)
・警察に連絡する(紛失、もしくは盗難届けを出す)
・指紋認証や顔認証、パスワードなどのロックをかけておく
・定期的にデータのバックアップをしておく
・他の端末から遠隔操作でスマホを使えないよう(初期化)する
・「iPhoneを探す」をオンしておく(Apple社の場合)
生徒の発表からは、いろいろな意見が出てくると思います。みんなで共有し、お互いの意見から気づきが得られたら次のステップへ進みましょう。
最低限知っておきたい知識
消費者トラブルの多くは、「契約の取り消しができない」「支払ったお金が返ってこない」といった形で発覚します。しかし、「クーリング・オフ」や「中途解約」の制度を理解しておけば、こうしたトラブルを未然に防ぐことが可能です。
クーリング・オフ
特定の商取引(訪問販売・電話勧誘販売・連鎖販売取引・特定継続的役務提供(エステティックや美容医療等)・業務提供誘引販売取引(内職商法やモニター商法等))では、契約書面を受け取った日から8日以内であれば無条件に契約を解除できます。サービスの利用や商品の使用を始めてしまうと対象外となる場合もあるため、事前確認が重要です。
下記のサンプルでは「当書面を受け取ってから、8日以内であれば書面またはEメール、FAXにより契約を契約を解除することができる」と記載してあります。支払ったお金も返してもらえます。ただし、すでにサービスを受けたり、商品を使ったりすると、クーリング・オフができなくなります。

エステティックサービスの場合、契約金額「5万円を超え、かつサービスの提供期間が1ヶ月を超える」契約についてはクーリング・オフが適用され、上記のような契約内容に関する概要書面を顧客へ明示する義務があります。トラブルを避けるためにも、情報収集から比較検討の段階で、急がず、慌てず、十分に時間を確保する必要がありそうですね。
中途解約
クーリング・オフの期間が過ぎてしまった場合や、クーリング・オフの対象とならない契約でも、契約を解除することはできますが、違約金や手数料が発生することがあります。契約時には中途解約条項を確認し、トラブル回避に努めましょう。
理解度を確認する実践ワーク
身近な商取引で起こり得る事例について考えてみましょう。生徒さん向けに2つの質問を用意しました。
例題1:推しグッズが驚きの安値で売られている!購入しても大丈夫?
(ポイント)
・その比較サイトは、信用できるサイトか?
・比較サイトに出店している業者は、信用できる会社か?
安い商品が怪しいとは限りませんが、ネット購入では「サイト運営者」と「出店企業」の信頼性を確認することが大切です。例えば、楽天市場では楽天グループがサイト運営者、ビッグカメラが出店企業にあたります。商品が違ったり不良品だった場合、対応してもらえないリスクがあるため、事前に確認を忘れずに。それでも不安なら、誰かに相談するか購入を控えましょう。
例題2: USJのチケットを購入後、体調不良で行けなくなった。返金は可能?
(ポイント)
・原則、購入後のキャンセルはできません
・一部のチケットは「入場日」を変更できます
・法令上の解除または無効事由(大規模災害、公共交通機関のトラブル、USJの休園等)に該当すると、お金を返してもらます
(2025年1月5日現在)
チケット購入時に確認をしましょう。上記の内容は、USJのホームページでも公開されています。
18歳までに知っておきたいこと
契約の基本
契約は口頭でも成立するため、慎重な判断が必要です。購入や取引時の記録を取る習慣を教えましょう。
リボ払いのリスク
クレジットカードで高額な商品を買う際は「分割払い」や「リボ払い」が利用できます。分割払いは回数を指定し、リボ払いは毎回の支払上限を設定する方法です。ただし、リボ払いは月々の支払いが少ない分、返済期間が長くなり、金利手数料が多くなる点に注意が必要です。

与信情報(ブラックリスト)
クレジットカードの支払いやローンの返済が滞ると、信用情報機関(CIC、JICC、KSC)に滞納履歴が記録されます。これが「ブラックリスト」と呼ばれるものです。一度記録されると、銀行やクレジットカード会社が確認できるため、住宅ローンやクレジットカードの審査に通らなくなる可能性があります。
個人情報保護法
さまざまなアプリで個人情報が簡単に取得されるため、必要かどうかを慎重に判断し、最低限の情報提供に留めましょう。サイト閲覧履歴も個人情報と紐づいています。詳しくは、内閣府のホームページで個人情報保護法の解説をご覧ください。
まとめ
中学生にとって、消費者教育は将来の生活基盤を築く第一歩です。授業では実践的な事例を活用し、生徒が主体的に考えられる場を提供しましょう。本記事の内容を授業に取り入れ、生徒の「生きる力」を育むサポートをしてみませんか?
【参考資料】
・デジタル時代にだまされないための18歳からの「契約」超入門 著:遠藤研一郎
・東京くらしWEB 消費生活に関わる東京都の情報サイト
・あしたの暮らしをわかりやすく 政府広報オンライン
・中学生向け消費者教育教材「消費者センスを身につけよう」 消費者庁
・独立行政法人国民生活センターホームページ
・特定非営利活動法人日本エステティック機構ホームページ