「学校に通うこと」だけが、教育の正解なのでしょうか?
SDGsのゴール4「質の高い教育をみんなに」を考えるとき、私たちは教育制度や学校のあり方に目を向けがちです。しかし、不登校の子どもたちにとって、最も身近で重要な「教育環境」は、実は家庭の中にあります。
今回は、最新の文部科学省データと、不登校支援の現場から見えてきた「親ができる具体的なアクション」について、金融・キャリア教育の視点も交えてお伝えします。
小・中学校の不登校は35万3,970人、高校生は6万7,782人
まず、現状の数値を整理します。文部科学省の最新データ(令和6年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)によると、小・中学校における不登校児童生徒数は 35万3,970人 となり、過去最多を更新しました。これは前年度から約7,500人(2.2%)の増加です。
主な数値は以下のとおりです。
- 小学生の不登校数:13万7,704人(前年度比 5.6%増)
- 中学生の不登校数:21万6,266人(前年度比 0.1%増)
- 高校生の不登校数:6万7,782人(前年度(6万8,770人)から減少)
(出典:文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」)

小・中学生の不登校者数は依然として増加傾向にあり、特に小学生の増加が目立ちます。一方で、高校生の不登校者数は前年度よりわずかに減少しました。
しかし、ここで注目すべきもう一つのデータがあります。「通信制高校」への進学状況です。
通信制高校生は30万人超へ。高校生の「およそ10人に1人」
全日制・定時制の生徒数が減少傾向にある中で、通信制高校の生徒数は 30万5,221人(令和7年度「学校基本調査(速報)」)となり、過去最多を更新しています。これは高校生全体の 「およそ10人に1人」 に相当します。
通信制高校は今や、単なる受け皿ではありません。eスポーツやプログラミングなどの専門スキルを磨くことはもちろん、大学進学に向けた受験対策や、スポーツ・芸術などの課外活動に専念できる環境としても選ばれています。 また、自己管理ができるのであれば、アルバイトをして家計の負担を軽減するなど、社会経験を積みながら学ぶことも可能です。
このように、生徒一人ひとりの目標やライフスタイルに合わせた「第1の選択肢」になりつつあります。多様な学びの場が広がることは、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」教育の一環と言えます。

卒業後の進路が決まらない「約6.3倍」の壁
しかし、課題もあります。それは「卒業後の進路」です。
文部科学省の最新データ(令和6年度「学校基本調査」)によると、全日制・定時制高校の卒業生における「進路未決定者(進学も就職もしない)」の割合は約4.5%(96万2,009人中 4万3,058人)でした。 それに対し、通信制高校の卒業生ではその割合が 約28.2%(8万4,450人中 2万3,798人)に上ります。
これは、全日制・定時制と比較して 約6.3倍 も高い水準です。
通信制高校は「自由な時間」が多いのがメリットですが、自己管理や社会との接点作りが難しい側面もあります。心のエネルギーが回復しないまま、あるいは具体的な進路イメージを持てないまま卒業を迎えてしまうと、その後の社会的自立が難しくなってしまうのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
親が変われば、子どもは驚くほど変わる
不登校や進路に悩む時期、子どもは自信を失い、不安の中にいます。ここで重要になるのが、家庭での接し方です。
不登校支援サービス「スダチ」を運営し、1万人以上の相談実績を持つ小川涼太郎氏は、著書『1万人以上の不登校相談からわかった! 子どもの「学校に行きたくない」が「行きたい!」に変わる本』の中で、こう述べています。
「親の言動を少し変えるだけで、子どもは驚くほど変わり出す」
小川氏が提案するのは、子どもを変えようとするのではなく、まずは親自身が変わること。具体的には以下の3つの徹底が重要だと説いています。
- 接し方:過干渉や先回りを控え、子どもを信じて見守る姿勢を持つ。
- 声のかけ方:子どもの自己肯定感を下げる言葉を避け、努力や行動を具体的に認める。
- 家庭でのルール:デジタル機器の使用時間や生活リズムなど、親子で決めたルールを「なあなあ」にせず守る。
これらを徹底することで、家庭が「甘やかす場所」ではなく「安心できる規律ある場所」に変わり、子どもの心のエネルギーが回復し始めます。
家庭の安定が「キャリア」への土台になる
私がお伝えしている「金融教育」や「キャリア教育」も、実はこの家庭の安定の上に成り立っています。
家の中が安心でき、生活リズム(ルール)が整って初めて、子どもは「将来どうやって生きていこうか?」「どんな仕事がしたいか?」と外の世界へ目を向けることができます。
- ステップ1(家庭):親の接し方を変え、家庭内のルールを整える(小川氏のメソッド)。
- ステップ2(社会):通信制高校などの時間を使い、多様な働き方やお金の知識(金融リテラシー)を学ぶ。
この順序が大切です。「進路はどうするの?」と焦る前に、まずは家庭内での「親子の関わり方」を見直してみる。それが結果として、子どもの自立、ひいてはSDGsが目指す「質の高い教育」の実現につながります。
まとめ:今日からできる「家庭の土台づくり」
もし今、お子さんの学校のことで悩んでいるなら、まずは通信制高校という多様な選択肢があることを知ってください。そして、家庭の中では「学校に行きなさい」と言う代わりに、小川氏が提案するような「親の行動の変化」を試してみてください。
私たち大人が変わることで、子どもの未来は確実に変わります。
焦らず、まずは家庭の土台作りから始めてみませんか。
参考書籍
- 小川涼太郎『1万人以上の不登校相談からわかった! 子どもの「学校に行きたくない」が「行きたい!」に変わる本』(PHP研究所)
参考資料
- 文部科学省『令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』
- 文部科学省『令和6年度 学校基本調査』
- 文部科学省『令和7年度 学校基本調査(速報)』
- 文部科学省『令和7年1月31日 第16回高等学校教育の在り方 ワーキンググループ資料』