私たちが当たり前のように享受している「食」と、それを支える「経済」は、実は驚くほど薄氷の上に成り立っています。
今回は、高市早苗氏の著書『国力研究』(産経新聞出版)にも掲載されたデータを紐解きながら、SDGsゴール8「働きがいも経済成長も」について、これまでにない視点で考えてみたいと思います。
これは、遠い国の話ではありません。私たちのお財布と、子どもたちの未来の食卓を守るための、極めて現実的なお話です。
数字で見る日本のリスク「経済安全保障と産業の持続可能性」
農業は、日本の食卓と地域経済を支える重要な産業です。
その生産を支える「肥料」の多くは、原料となる尿素・りん安(リン酸アンモニウム)・塩化カリウムなどを海外に依存しており、特定の国からの輸入が止まると日本の農業生産そのものが揺らぎます。
高市早苗氏の『国力研究』および農林水産省の『肥料をめぐる情勢(令和7年10月)』によると、日本の肥料原料の海外依存度は、目を覆いたくなるような数字です。
・尿素:海外依存度 約96%(主な輸入先:マレーシア、中国など)
・リン酸アンモニウム:海外依存度 ほぼ100%(主な輸入先:中国など)
・塩化カリウム:海外依存度 ほぼ100%(主な輸入先:カナダ、イスラエルなど)
ほぼすべてを海外に頼っているのが現状です。
しかも、中国やイスラエルといった、地政学的なリスクを抱える国々への依存度が高いことが見て取れます。ウクライナ情勢や中国の輸出規制のような国際情勢の変化によって肥料が手に入らなくなれば、農業従事者はそもそも「働くこと(生産活動)」ができず、地域経済や日本全体の経済成長も止まってしまいます。
このように、生産活動を止めないための経済安全保障(サプライチェーンの確保)は、ゴール8が目指す「持続可能な経済成長」と「安定した雇用」の大前提だといえます。
価格高騰とインフレ。金融教育の生きた教材として
肥料の供給が滞ると、まず起こるのは肥料価格の高騰です。そして、そのコスト増は野菜や米などの食料価格に転嫁され、私たちの生活をじわじわと圧迫するインフレにつながります。
家計の立場から見ると、
・給料が上がらない中で食料品の値上がりにより実質的な可処分所得が減る
・消費が落ち込み、経済の好循環が生まれにくくなる
という形で、ゴール8が目指す「包摂的で持続可能な経済成長」が損なわれてしまいます。
だからこそ、安定した資源の確保は、遠い世界情勢の話ではなく、家計と経済活動(お財布事情)を守ることだという視点が大切です。
肥料のサプライチェーンのニュースと、毎日の食費、物価上昇、将来の家計管理が一本の線でつながっていることを理解することは、金融教育の重要なテーマになります。中高生にとっても、「ニュースに出てくる国名や資源の話が、自分の生活とどこでつながっているのか」を考えるきっかけになるでしょう。
まとめ
肥料をめぐる国際情勢は、農業という産業の持続可能性と、私たちの家計の安定の両方に影響を与えています。サプライチェーンを多様化し、経済安全保障を強化することは、農業従事者の「働きがい」と、日本全体の「経済成長」を守るために欠かせません。同時に、資源の安定供給と物価の関係を学ぶことは、金融教育の重要な一歩です。
遠くの国で起きている出来事が、身近な食卓やお財布とどうつながっているのかを、一緒に考えていくことが、ゴール8の実現につながっていきます。