大学受験に向けた時間割や技能実習などで、家庭科が十分な時間を確保できない学校もあるとききました。教科書のテーマは、家族や子どもとの関わり、衣食住、さらには金融教育まで、盛りだくさん。限られたコマ数で、すべてをやりきれないもどかしさを抱える先生方も多いのではないでしょうか。
この記事では「生徒たちの将来のために、お金についてちゃんと伝えたい!」と、金融教育に熱い思いをいだく、家庭科の教職員の皆さまに向けてまとめました。
FP1級のSDGs金融教育アドバイザーが、実教出版「Agenda家庭基礎」に掲載されている内容を独自に5つのテーマにわけて、お伝えします。この教科書における金融教育の本質は「生涯の見通し」と「社会とのつながり」を理解し、自立に備えることです。
シリーズ第2回のテーマは『家計からの支出』です。生徒の皆さんが興味をもって授業にのぞんでもらえるように、具体的な事例を活用しました。
支出の内訳
毎月の収入のゆくえは「非消費支出」と「可処分所得」にわけられます。「非消費支出」は、税金や社会保険料など行政機関へおさめるべきお金なので手元には残りません。収入から非消費支出を引いた残りの「可処分所得」は、さらに「消費支出」と「貯蓄・投資」にわけられます。なお、収入についてはこちらの記事でお伝えしていますので、あわせてご覧ください。
消費支出には、ふだんの生活でかかる食費や光熱費(電気代、ガス代)などはもちろん、趣味や遊びに使うお金もふくまれます。また子どもが通う学校、塾、習い事などの費用や、実家をでるなら家賃や住宅ローンもここにふくまれます。また昨今の物価上昇による家計への影響は、ご覧の通りです。
支出のなかでもとくに「子どもの教育費」「住まいにかかる費用」「老後の生活資金」は、人生の三大支出といわれており、おさえておきたいポイントです。生きていくうえでのお金にまつわる不安や悩みは、多くの場合この三大支出が関係しています。
三大支出その①(子どもの教育費)
子ども一人を社会人まで育てあげるために、必要な資金は1,000〜2,000万円くらいといわれています。下の図は、幼稚園から高校卒業までの学費をまとめたものです。公立か私立かによって、教育費はちがいます。皆さんが通われている高校や塾の費用も確認してみましょう。
高校卒業後、大学や専門学校に進学した場合には、さらにお金がかかります。こちらも進学コースによって、費用は大きく異なります。すぐに準備できる金額ではないので、家計のなかから長期にわたって少しずつ積み立てておきましょう。実家を離れて一人暮らしをするなら、さらに「家賃」や「生活費」が必要になります。
三大支出その②(住まいにかかる費用)
住まいを考えるときに「買う」か「借りる」か、意見がわかれるところでしょう。どちらが良いかは一概に言えず、それぞれメリット&デメリットがあります。また一般的に子育ての時期と重なるので、将来かかる費用をあらかじめ想定して、若いうちから見通しをたてておくとよいでしょう。下の図は住宅やマンションを買ったときの平均値です。
例えば注文住宅については、土地代が必要になる場合もあります。また家やマンションを買う費用は、地価や人件費の影響をうけるので、首都圏のほうが高くなる傾向があります。実際の土地代やマンションについては、物件によって千差万別なので、個別具体的に検討していくことになります。
三大支出その③(老後の生活資金)
人生最後の三大支出は、老後の生活資金です。ずいぶん先の話ですが、とても大事なところです。生命保険文化センターの調査によると、最低限必要な毎月の生活費は23万円といわれています。さらに旅行や趣味などを満喫できるようゆとりある生活をしたいと考えるなら、毎月37万円が必要です。多くのひとは、これらの資金を公的年金だけでは、補えません。仕事をつづけたり、若いころから金融資産を蓄えたりして、収入源を確保します。
例えば、65歳男性の平均余命は19年(平均して現在65歳の男性は、あと19年生きる)です。ゆとりある老後の毎月の生活費37万円×12ヶ月×平均余命19年=8,436万円を、勤労収入・金融資産・公的年金で確保できれば、その間の夫婦の生活は安心です。ただし、介護の費用については、公的介護保険制度もありますが、別途考えておく必要があります。
三大支出のまとめ
三大支出については、家計への負担が大きいため政府や銀行、保険会社で、さまざまな制度や商品が設けられています。手当として支給されるもの、税金を優遇するもの、借りるとき貯めるときの優遇制度などがあげられます。国・自治体の制度や予算は、毎年変わっていくので、常に情報収集しておくとよいでしょう。
ライフステージ別の支出
支出の内訳は、働き方や住む場所、家族構成によって異なります。下の図は「二人以上の世帯」の可処分所得と消費支出を世代ごとにまとめたものです。年齢があがるにつれて収入が増え、子どもが成長するにつれて支出も増えていく傾向です。
ライフプラン
毎月の支出のことだけを考えていると、不安になりがちですよね。せっかくの人生が楽しめません。ライフプランを作成してみると、生涯のお金の見通しをたてることができます。将来のイメージができると、対策を検討し、起こりうるお金の問題を回避することが可能になります。
上の図の例では、30歳で結婚をして、そのあと2人の子どもが生まれた場合のシミュレーションです。夫婦共働きで、子どもを育てあげ、老後の資金もしっかり準備できた場合のイメージです。ライフプランシミュレーションは「働き方」「収入」「資産内容」「家族構成」などによって、一人ひとり違うかたちになります。
GDPと家計からの支出
令和3年度のGDP550兆円のうち、家計からの支出は288兆円(内閣府令和3年度国民経済計算年次推計)で約52%を占めています。日本の経済力の半分以上は、家計で支えられているわけですね。
日本の政府の重要な役割のひとつに「個人消費が落ち込まないようにすること」があげられます。個人消費が落ち込むと、企業や事業主の業績が悪くなり、給与やボーナスが減り、政府の税収が落ち込みます。
税収が落ち込むと「子育て支援」「医療介護」などの社会福祉や、「公共工事」「国の安全保障」など安心して暮らせる環境が保てなくなります。一人ひとりの消費活動は、国全体で考えると、とても大きな影響を及ぼすわけです。
まとめ
収入から非消費支出を除いた部分が、家計からの消費支出と貯蓄・投資にまわります。
とくに「子どもの教育費」「住まいにかかる費用」「老後の生活資金」は、人生のお金の不安や悩みの要因となることが多く、計画的な準備が必要でしたね。
支出の傾向は、働き方や住む場所、家族構成によって異なります。また一人ひとりの支出は、国全体の経済力を支える重要な要素なので、政府の長期的なビジョンに関心をもつことも大事です。
実践ワーク
下の図のような収入と支出のバランスとなった場合、どのような対策が考えられますか?
【ポイント】 ・答えは一つとは限りません。さまざまな考え方を授業で共有しましょう。 ・収入をあげるためには、どうすればよいか? 例:働き方を変える、夫婦フルタイムで働く、スキルアップして転職するなど ・子どもの教育費について、確認しましょう。 ・住まいにかかる費用について、ネット検索をして比較してみましょう。 ・老後の生活資金が準備できていません。収入をあげることに加えて、貯蓄や投資を検討しましょう。 ・結婚しないという生き方も尊重しましょう。その場合の収入と三大支出への影響も考えてみましょう。