「薬剤師になるのは難しいですか?」
「バスケットボール選手で、プロになれる確率は?」
オンライン授業中、Google Meetのチャットには、児童からさまざまな質問が寄せられました。
今回の授業に参加したのは、小学校5・6年生の約50人です。児童は、将来なりたい職業をもとに17のグループに分かれました。
看護師や薬剤師、ゲームクリエイター、建築士、料理やパンづくりに関わる仕事、教師や保育士、スポーツ選手など、関心を持っている仕事はさまざまです。
当然、仕事に就くまでの道のりも一つではありません。資格が必要な仕事もあれば、練習や経験の積み重ねが重視される仕事もあります。学校で専門的に学ぶ方法もあれば、働きながら技術を身につける方法もあります。
こうした異なる職業について、児童の調査をどのように支えればよいのでしょうか。
すべての仕事について、先生や講師が詳しい答えを準備することはできません。そこで、授業前に学校へ配布したのが「グループ別・調査スタートガイド」でした。
「自由に調べてみよう」だけでは、調査を始めにくい
インターネットを使えば、さまざまな職業の情報を調べられます。
しかし、検索できる環境があれば、児童がすぐに調査を始められるとは限りません。
例えば「看護師」と検索すると、仕事内容、求人情報、学校案内、資格試験、年収など、多くの情報が表示されます。その中から、自分たちの知りたい情報を選ぶ必要があります。
検索結果に書かれている言葉が難しく、内容を理解できないこともあります。反対に、情報が多すぎて、何から読めばよいのか分からなくなることもあります。
「ゲームクリエイターになるには」と検索しても、プログラマー、デザイナー、企画、音楽など、仕事の種類は一つではありません。
「プロスポーツ選手になれる確率」と調べても、競技や年代、国内外のリーグによって条件が異なるため、一つの数字では表せません。
児童に「自由に調べてみよう」と伝えるだけでは、自由度が高すぎて、調べ始める前に迷ってしまうことがあります。
必要だったのは、職業ごとの詳しい答えではなく、最初に何を調べればよいかを示す手がかりでした。
「調査スタートガイド」は、答えではなく最初の足場
今回用意した「調査スタートガイド」は、職業についての答えをまとめた資料ではありません。
児童が調査を始めるために、どのような視点から調べればよいのかを、職業別に整理したものです。
例えば、次のような視点があります。
- どのような仕事をするのか
- どのような勉強や練習が必要か
- 必要な資格や進学先はあるか
- どのくらいの期間が必要か
- 準備にどのようなお金がかかるか
- 小学生の今からできることは何か

すべての項目を順番に埋めるための「正解シート」ではありません。
どこから調べればよいか分からなくなったときに戻れる、地図のような役割を想定しました。
同じ職業について調べていても、児童によって関心を持つところは違います。仕事内容に興味を持つ児童もいれば、必要な資格や学校について知りたい児童もいます。
ガイドによって調べる内容を一つにそろえるのではなく、調査を始めるための入口を示し、その先は児童の疑問に応じて広げられるようにしました。
仕事によって、調べる入口は異なる
なりたい仕事が違えば、最初に調べることも変わります。
例えば、看護師、薬剤師、建築士などは、資格が仕事と深く関係しています。
このような仕事では、仕事内容だけでなく、
- どのような資格が必要か
- 資格を取るために、どこで学ぶのか
- 何年間学ぶ必要があるのか
- どのような試験を受けるのか
といったところから調べると、仕事に就くまでの道のりが見えてきます。
スポーツ選手の場合は、資格よりも練習や競技経験、試合への出場、チームへの所属、選考などが大きく関係します。
そのため、
- どのような練習が必要か
- どのような大会や選考があるか
- どのような場所で経験を積むのか
- 道具や遠征、練習環境にどのようなお金がかかるか
といった視点が調査の入口になります。
ゲームクリエイターや料理、パンづくりに関わる仕事などは、仕事の中に複数の役割があり、そこへ至る道も一つではありません。
学校で専門的に学ぶ方法もあれば、自分で作品をつくったり、働きながら技術を身につけたりする方法もあります。
このような仕事では、まず「その仕事の中に、どのような役割があるのか」を知ることが、次の調査につながります。
すべての仕事を同じ型に当てはめる必要はありません。
共通する視点を持ちながら、職業に合わせて調べる入口を変えることが大切です。
大きな疑問を「調べられる質問」に分けていく
授業では、「看護師になれる確率はどのくらいですか」という質問がありました。
とても自然な疑問ですが、この質問に一つの数字で答えるのは簡単ではありません。
看護師の国家試験合格率を調べることはできます。しかし、それは試験を受けた人のうち、何人が合格したかを示す数字です。小学生が将来看護師になれる確率を、そのまま表しているわけではありません。
そこで、大きな疑問を小さな質問に分けていきます。
「看護師になるには」という疑問であれば、
- どのような学校へ進むのか
- 何年間学ぶのか
- どのような資格が必要か
- 資格試験の合格率はどのくらいか
- どのような勉強が必要か
- 小学生の今からできることは何か
と分けることで、一つずつ調べられるようになります。
プロスポーツ選手の確率についても同じです。
競技人口とプロ選手数を比べれば、おおよその割合を考えることはできます。しかし、競技の種類、プロの定義、年代、男女、国内外の違いによって数字は変わります。
一つの検索結果をそのまま「答え」にするのではなく、「この数字は誰を対象にしているのか」「別の条件ならどうなるのか」と考えることも、調査の一部です。
最初は、児童が思いついた質問文をそのまま検索しても構いません。
検索結果を見て分からない言葉があれば、その言葉をもう一度調べます。情報が広すぎる場合は、「職業名+資格」「職業名+学校」「職業名+必要な勉強」のように、知りたいことを加えます。
調査とは、最初から上手な検索ができることではありません。
検索しながら問いを小さくし、自分が本当に知りたかったことへ近づいていく活動でもあります。
職業調べに「お金」の視点を加える
職業調べでは、仕事内容、必要な資格、年収などが中心になりがちです。
もちろん、働いたときにどのくらいの収入を得られるのかを知ることも大切です。
一方で、今回の授業では、仕事に就いた後のお金だけでなく、仕事に就くまでの準備に必要なお金にも目を向けました。

例えば、
- 学校で学ぶためのお金
- 資格を取るためのお金
- 教材や道具をそろえるためのお金
- 練習や経験を積むためのお金
などです。
職業に就くまでに必要なのは、お金だけではありません。時間、勉強、練習、周囲の支援など、さまざまな準備が必要です。
しかし、お金もその中の一つとして知っておけば、夢までの道のりをより具体的に考えられます。
ここで大切なのは、「お金がかかる仕事は諦める」と考えないことです。
必要な金額は、進学先や学び方によって変わります。支援制度や奨学金を利用できる場合もあります。一つの数字だけを見て、できるか、できないかを決める必要はありません。
お金は、夢をふるいにかけるための条件ではなく、夢を実現するために必要な準備を考える材料です。
職業調べにこの視点を加えることで、キャリア教育と金融教育がつながっていきます。
先生や講師は、すべての答えを知っていなくてもよい
17グループから寄せられる質問は、非常に幅広いものでした。
看護師や薬剤師になる方法、スポーツ選手になれる確率、学校や資格、収入など、その場ですぐに答えられない質問もあります。
しかし、先生や講師が、すべての職業について詳しい答えを用意する必要はありません。
児童が見つけた情報に対して、次のような問いを返すことでも調査を支えられます。
- その情報は、どこに書いてありましたか
- いつの情報ですか
- ほかのサイトにも同じことが書かれていますか
- その数字は、誰を対象にしていますか
- ほかの進み方はありませんか
- 小学生の今からできることは何でしょうか
分からない質問に、その場で無理に答えを出さないことも大切です。
大人がすぐに正解を教えるのではなく、児童と一緒に調べ方を考える。その姿勢自体が、探究的な学習につながります。
異なる夢を調べるからこそ、共通点が見えてくる
児童が調べた職業は、それぞれ違います。
必要な資格や学校、練習の内容、仕事に就くまでの期間も異なります。
それでも調査を進めると、多くの仕事に共通することが見えてきます。
仕事に就くためには、勉強や練習を続けること、人と関わる力を身につけること、必要な資格や経験を知ること、時間やお金を準備することなどが必要です。
そして、夢へ近づく道は、一つとは限りません。
最初に考えた進路とは違う方法が見つかることもあります。調べる中で、同じ仕事の中に別の役割があると知ることもあります。
職業調べの目的は、職業名について詳しくなることだけではありません。
自分が目指す未来に向けて、今から何を学び、どのような経験を重ねればよいのかを考えることにあります。
多様な職業調べを支える3つのポイント
今回の実践を、総合的な学習の時間などで職業調べを行う先生向けに整理すると、ポイントは次の3つです。
共通する調査の視点を示す
仕事内容、必要な学びや経験、資格や進路、準備にかかるお金など、どの職業にも応用できる視点を示します。
共通の視点があることで、児童は何を調べればよいのかを考えやすくなります。
職業に合わせて調査の入口を変える
資格が必要な仕事と、技術や経験が重視される仕事では、最初に調べる内容が異なります。
全員に同じ調べ方を求めるのではなく、職業別に最初の手がかりを用意すると、児童が自分たちで調査を始めやすくなります。
答えよりも、次の問いを大切にする
一つの情報を見つけて終わりにせず、情報源や対象、ほかの進み方などを問い返します。
調査の途中で新しい疑問が生まれることは、失敗ではありません。新しい問いが生まれたこと自体が、学びが深まった証しです。
まとめ——必要なのは「答えの一覧」ではなく「調べ始めるための地図」
17のグループが調べる仕事は、それぞれ異なっていました。
そのすべてについて、学校や講師が正解を用意することはできません。
だからこそ役立ったのが、調べる視点や入口を示す「調査スタートガイド」でした。
児童の夢が多様になるほど、必要なのは詳しい答えの一覧ではありません。
自分で問いを立て、必要な情報を探し、夢までの準備を考えるための地図です。
ガイドを手がかりに調べ、分からないことを質問し、さらに調べる。その繰り返しによって、「なりたい仕事」は、遠い将来の憧れから、今の自分とつながるテーマへ変わっていきます。
次回は、調べた進路や費用を年表に整理し、「お金がかかるから無理」で終わらせないための授業設計について紹介します。
オンラインでのキャリア教育や金融教育の出前授業をご検討の先生は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。学校で取り組んでいる学習内容や、児童が関心を持っている職業に合わせて、調査の進め方を一緒に考えます。

