画面には、児童の顔が映っていません。声も聞こえません。
それでも、Google Meetのチャットには、さまざまな意見や質問が次々に流れてきました。その様子は、ライブ配信のコメント欄が一気に賑わう感覚に近いものでした。
今回、小学校5・6年生の約50人を対象に、45分×2コマのオンライン出前授業を行いました。児童は、将来なりたい職業をもとに17のグループに分かれ、夢に近づくために必要な勉強や経験、お金などを調べました。
約50人のカメラとマイクを原則オフにした状態で、どのように双方向の授業をつくるのか。実際に授業を終えて感じたのは、オンライン授業を支えるのは機能の多さではないということです。
大切だったのは、学校と講師による丁寧な事前準備、現地の先生方の柔軟な支援、そしてチャットを通じた多方向の交流でした。

約50人のカメラとマイクをオフにした理由
オンライン授業では、児童の顔を画面に映し、発言するときにマイクをオンにする方法もあります。
しかし今回の事前打ち合わせでは、学校側の先生から、これまでのオンライン授業準備の経験を踏まえたアドバイスをいただきました。約50人が一斉にカメラやマイクを使用すると、通信が不安定になったり、画面がフリーズしたりする可能性があるというものです。
そこで当日は、児童側のカメラとマイクを原則オフにしました。
講師から見れば、児童の表情や教室の空気を直接読み取ることはできません。授業前には、こちらから問いかけても反応が分からず、一方通行になってしまうのではないかという不安もありました。
ところが、実際に始まってみると、大きな不便は感じませんでした。
児童の反応はチャットを通じて届き、教室では現地の先生方がグループの様子を見ながら支援してくださいました。カメラやマイクを使わなくても、別の方法で児童と講師をつなぐことができたのです。
授業は当日ではなく、事前のやり取りから始まっていた
今回の授業に向けて、学校の先生方とは事前にオンラインで1回打ち合わせを行いました。
ただし、一度の打ち合わせですべてが決まったわけではありません。その後もメールでやり取りを重ね、当日のスケジュールやワークシートを何度も調整しました。
調整の基準にしたのは、こちらの都合ではなく、児童が学校で学んできた内容です。
学校では、児童が仕事や働くことについて調べていました。そこで今回の出前授業では、それまでの学習を出発点として、なりたい仕事に就くまでの準備や、必要になるお金へと考えを広げられるようにしました。
講師が説明する時間を長くするのではなく、児童が自分で調べ、グループで話し合い、ワークシートに整理する時間を確保する。そのために活動の順番や時間配分を見直し、ワークシートの内容も学習状況に合わせて修正しました。
オンライン授業の準備というと、接続方法や音声の確認を思い浮かべるかもしれません。もちろん、通信環境の確認は欠かせません。
しかし、授業を実際に支えたのは、機器の確認だけではありませんでした。「これまで何を学んできたのか」「今回の授業で、どこまで考えてほしいのか」を学校と講師が共有し、その内容に合わせて授業をつくり直したことが大きかったと感じています。
17グループは「将来なりたい職業」ごとに編成
児童は、将来なりたい職業をもとに17のグループに分かれました。
同じ職業に関心を持つ児童が一緒に、仕事内容、必要な勉強や練習、学校や資格、経験、必要になるお金などを調べます。
グループごとに調べる職業が異なるため、チャットにはさまざまな視点が集まりました。あるグループは資格について書き、別のグループは練習や道具について疑問を投げかけます。それぞれの投稿を見ることで、自分たちが調べている仕事との共通点や違いにも気づけます。
ここでチャットは、調べた答えを講師へ提出するだけの場所ではありません。
児童は、調べた情報の中から大切だと思うことを選び、グループで話し合い、自分たちなりの言葉にして投稿します。講師はその投稿を取り上げ、問いを返したり、全体に共通する気づきを紹介したりします。
つまり、
調べる → 話し合う → 言葉にする → 投稿する → ほかの意見を見る → さらに考える
という学びの流れが生まれます。
音声発表を文字に置き換えただけではなく、チャットへの投稿そのものが、一つの学習活動になっていました。
まるでライブ配信のコメント欄——チャットの中に賑やかな教室があった
今回、特に印象に残ったのが、チャットの賑やかさです。
講師が問いを投げかけると、職業別のグループから、調べて分かったこと、驚いたこと、疑問に思ったことなどが次々に投稿されました。
感覚としては、ライブ配信中に、視聴者からのコメントがさまざまな場所から一斉に届く様子に近いものでした。
対面授業で意見を聞く場合は、挙手した児童を一人ずつ指名し、順番に話してもらうことが一般的です。その方法では、一人の発言を丁寧に聞ける一方、限られた時間の中ですべての声を拾うのは難しくなります。
チャットでは、複数の児童やグループが、ほぼ同時に考えを伝えられます。一つの意見が表示された直後に、別のグループから違う視点が届くこともあります。
画面だけを見れば、児童の顔も見えず、声も聞こえない静かなオンライン授業です。しかし、チャットの中では、多くの意見が行き交う賑やかな教室が生まれていました。
私自身、対面授業よりも多くの声を拾えたと感じています。
オンラインだから児童の反応が分からないのではなく、オンラインだからこそ表に出てくる反応もある。これは今回の授業で得た、大きな気づきでした。
現地の先生方が、画面の向こう側をつないでくれた
チャットだけで、約50人の学習をすべて把握できるわけではありません。
投稿する内容を考えているグループ、検索する言葉が決まらないグループ、ワークシートへの整理に迷っているグループもあります。こうした様子は、オンライン講師からは見えません。
そこで大きな役割を果たしてくださったのが、現地の先生方です。
当日の動きについて、事前に細かな役割分担を決めていたわけではありません。実際の授業では、二人の先生が17グループを随時回りながら、調査や話し合いをフォローしてくださいました。もう一人の先生は、オンライン講師とのやり取りを行いながら、教室全体の進み具合を見てくださいました。
講師は、チャットに表れた言葉を読み取る。現地の先生方は、児童の表情や手の止まり方、グループの話し合いの様子を見る。
それぞれが異なる場所から児童の学びを捉え、必要なところを柔軟に支えたことで、カメラとマイクをオフにしていても授業を進めることができました。
オンライン講師だけで約50人を支えたのではありません。教室にいる先生方が、児童と講師の間をつないでくれたからこそ成り立った授業でした。
約50人のオンライン授業を支えた3つのこと
今回の実践を、総合的な学習の時間などでオンライン授業を検討している先生向けに整理すると、ポイントは次の3点です。
学校の学習内容に合わせて準備する
完成した授業案を学校へ持ち込むのではなく、事前の打ち合わせとメールを通じて、スケジュールやワークシートを調整しました。
学校で進めてきた学習とつながっているからこそ、児童はオンライン授業を単発のイベントではなく、これまでの学びの続きとして捉えられます。
現地の先生方が柔軟に支援する
講師には、チャットに投稿された言葉は見えても、その前で困っている児童の様子までは見えません。
教室の先生方がグループを回り、必要な場面で声をかけることで、オンライン講師だけでは届かない部分を補えます。細かな担当を決めること以上に、授業の目的と流れを共有しておくことが重要でした。
チャットを学習の途中に組み込む
チャットを最後の発表だけに使うのではなく、調べたことや疑問を途中で外に出す場として使います。
投稿された意見を講師が拾い、別の問いへつなげる。児童はほかのグループの意見を見て、自分たちの考えを広げる。こうした多方向のやり取りによって、チャットは「発表の代わり」から学習手段へと変わります。
まとめ——顔や声が見えなくても、学びは見える
Google Meetのチャットは、音声発表の代わりに答えを書き込むだけの機能ではありません。
児童が調べたことを自分たちの言葉にし、ほかの意見に触れ、さらに考えるための学習手段になります。
今回、約50人のカメラとマイクは原則オフでした。それでも、チャットに流れるたくさんの言葉と、現地の先生方のフォローによって、児童の学びを十分に感じることができました。むしろ、対面授業より多くの声を拾えたと感じたほどです。
その土台にあったのは、事前のオンライン打ち合わせと、その後のメールによる繰り返しの調整でした。学校での学習内容に合わせて、当日のスケジュールやワークシートを一緒につくり直したことが、授業の進めやすさにつながりました。
オンライン授業は、対面授業の不便な代替手段ではありません。
顔や声が見えなくても、学びは見える。そして、オンラインだからこそ拾える声もある。
学校と講師が事前に目的を共有し、現地の先生方が児童を支え、チャットに多くの意見が行き交う。その組み合わせが、離れた場所から約50人の学びをつないでくれました。
オンラインでのキャリア教育や金融教育の出前授業をご検討の先生は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。学校で取り組んでいる学習内容を伺いながら、授業の進め方を一緒に考えます。

