「ライフプランのワークシートを使うなら、授業中に完成させたほうがよいのではないか」
そう考える方もいるかもしれません。
しかし、今回の小学校6年生向けの出前授業では、ワークシートのすべての欄を授業中に埋めることを目指しませんでした。
出前授業で中心的に扱ったのは、「仕事は誰かを助けること」と「お金は社会をめぐること」の2つです。
その先にある「未来のわたしを考える」部分は、考えるためのヒントだけを伝え、後日、各クラスの先生に引き継ぎました。
これは、時間が足りずにワークシートを完成できなかったということではありません。
授業前、出前授業当日、授業後で取り組む内容を分け、一枚のワークシートで学びをつなぐための設計です。
40分で将来を決める必要はない
ライフプランという言葉からは、将来の仕事や進学先、必要なお金などを順番に書き込んだ計画表が想像されます。
ただ、小学6年生の段階では、なりたい仕事が決まっている児童もいれば、まだ分からない児童もいます。興味のある仕事が、これから変わっていくこともあるでしょう。
仕事に必要な資格や進学先、学ぶためにかかる費用も、短い時間で正確に調べられるものではありません。
それでも授業中の完成を求めると、児童はじっくり考えることより、空欄を埋めることを優先してしまう可能性があります。
分からない数字を推測したり、周囲の答えを参考にしたりして、表を埋めること自体が目的になってしまうかもしれません。
そこで今回の授業では、将来の計画を決めるのではなく、これまで調べてきた仕事に「お金」という新しい視点を加えることに絞りました。
4つのSTEPを、授業の前後に分けて考える
ワークシートは、次の4つのSTEPで構成しました。

STEP 1 今のわたしを知る
【扱い:授業までに記入】
STEP 2 仕事は「誰かを助けること」とつながっている
【扱い:授業中に確認・必要に応じて追記】
STEP 3 お金は社会をめぐり、「ありがとう」がつながっている
【扱い:授業当日に記入】
STEP 4 未来のわたしを考える(ミニ・ライフプラン)
【扱い:授業ではヒントのみ/後日記入】
4つのSTEPは一つの流れになっていますが、すべてを一度に書く必要はありません。
授業までに考えてきたことを出発点に、出前授業で仕事とお金のつながりを加え、その気づきを使って後日、自分の未来を考えます。
STEP 1 「今のわたし」を出発点にする
STEP 1の「今のわたしを知る」は、出前授業までに記入してもらいました。
外部講師が白紙の状態から将来の夢を考えさせるのではなく、児童がそれまでに考えてきた自分自身や仕事についての学びを、授業の出発点にするためです。
将来の仕事が決まっていなくても問題ありません。
今の自分が関心を持っていることや、これまでの学習で気づいたことがあれば、そこから仕事や未来について考え始められます。
大切なのは、立派な夢を書くことではなく、「今の自分は何に興味を持っているのか」を確かめることです。
STEP 2 仕事を「誰かを助けること」として捉え直す
STEP 2は、授業中に内容を確認し、必要に応じて追記する形にしました。
職業調べでは、仕事内容や必要な資格、働く場所などを調べることがあります。そこに、もう一つ問いを加えます。
その仕事は、誰のどのような困りごとを助けているのでしょうか。
例えば、物を作る仕事は、必要な商品を使う人を助けています。運ぶ仕事は、必要な場所へ商品を届けています。人に楽しさを届けることも、生活を安全に保つことも、誰かを支える仕事です。
仕事を、単に「働いてお金をもらうこと」として見るのではなく、誰かに価値を届けることとして考えます。
ここで重要なのは、正解となる職業名を見つけることではありません。
児童が調べた仕事について、「誰を助けるのか」「何を届けるのか」を一つ考えるだけでも、仕事を見る視点は変わります。

STEP 3 出前授業で「お金」の視点を加える
授業当日に新たに記入したのが、STEP 3です。
ジュースを買ったお金や、ゲームに課金したお金は、その場で消えてしまうわけではありません。
商品を作る人、運ぶ人、売る人。サービスを企画する人、動かす人、守る人。支払ったお金は、さまざまな仕事につながっていきます。
一方、購入した人には、飲み物や楽しい時間などの価値が届きます。
誰かが仕事を通じて価値を届ける
→受け取った人がお金を支払う
→そのお金が、さらに別の仕事へつながる
この流れを、授業では「お金は『ありがとう』をつなぐ道具」と表現しました。
詳しい会計や流通の仕組みを覚えるのではなく、自分が使ったお金の先には誰かの仕事があることに気づくためのSTEPです。
STEP 2で考えた「誰かを助ける仕事」に、STEP 3で「価値を受け取った人からお金が支払われる」という視点が加わります。

STEP 4は、ヒントだけを渡して学校へつなぐ
STEP 4では、「未来のわたしを考える(ミニ・ライフプラン)」に進みます。

ただし、出前授業の中では記入を求めませんでした。
授業では、未来について考えるためのヒントとして、次のような問いを渡します。
- 興味のある仕事には、どのような力が必要だろう
- その仕事に就くために、何を学ぶ必要があるだろう
- 学校や資格について、どのようなことを調べればよいだろう
- 夢の準備や将来の生活には、どのようなお金が必要だろう
- 今の自分から始められることは何だろう
これらは、その場ですぐに答えを出すための問いではありません。
出前授業で得た仕事とお金の視点を使い、後日、各クラスの先生と一緒に調べ、考えるための問いです。
外部講師が、ライフプランを完成させない理由
仮に授業時間を増やしても、外部講師がその場でSTEP 4まで書かせることが最適とは限りません。
ライフプランは、一度の授業で外部講師が答えを示して終わるものではありません。
各クラスの先生は、児童がこれまで何を学び、何に関心を持ち、どこで迷っているのかを日頃から見ています。また、出前授業後の職業調べや発表、ほかの教科の学習ともつなげられます。
外部講師は、仕事とお金を見るための新しい視点を加える。
担任の先生は、その視点を児童一人ひとりの学びや未来へつなげる。
それぞれの役割を分けることで、出前授業が一日限りの特別な時間ではなく、その後の学習の一部になります。
空欄は「次に考えること」を残している
ワークシートに空欄があると、完成していないように見えるかもしれません。
しかし、まだ分からないことや決められないことが残っているからこそ、次の学習が始まります。
「必要な資格が分からない」なら、次に調べることが見つかります。
「なりたい仕事が決まっていない」なら、自分の興味や、助けたい人から考えることができます。
「どのくらいお金が必要か分からない」なら、学校や進路について具体的に調べるきっかけになります。
空欄は、考えられなかった跡ではありません。
これから調べ、書き加え、考え直すために残された場所です。
一枚のワークシートで、授業の前後をつなぐ
今回のワークシートは、次のように学びをつないでいます。
授業までに、今のわたしを考える
→授業中に、仕事は誰かを助けることだと捉える
→お金が「ありがとう」とともに社会をめぐることを知る
→授業後に、自分の未来や必要な準備を考える

出前授業の終了が、ワークシートの完成ではありません。
出前授業で加わった「お金」の視点を使って、児童が自分の未来を考え始める。その次の学習へ進める状態をつくることが、今回の授業の到達点でした。
ライフプランは、一度書いたら変えてはいけない計画ではありません。
新しい仕事を知ったり、興味が変わったりすれば、何度でも書き加え、見直すことができます。
だからこそ、授業中に完成させなくてよいのです。
今の自分から仕事へ。
仕事からお金へ。
そして、お金の視点から未来へ。
一枚のワークシートに残った問いが、職業調べと金融教育、その先のライフプランをつないでいきます。

