「老後の資金対策に」と、2024年から始まった新NISA。 皆さんの周りでも「オルカン(全世界株式)」や「S&P500」を毎月積み立てている方が多いのではないでしょうか?
実は、私たちが将来のためにコツコツ投資したお金が、驚くべき規模で日本から海外へ流出していることが、最新のデータ分析で見えてきました。
「なぜ円安が止まらないの?」
「海外への投資は続けてもいいの?」
今回は、日本証券業協会が公開している2024年の全金融機関データと独自の分析を元に、「新NISAでどれくらいのお金が海を渡ったのか」を試算し、それが私たちの生活(円安)にどう影響しているのかを分かりやすく解説します。
新NISA、1年間でこれだけ買われました(2024年実績)
まずは、2024年の1年間で、日本全体でどれくらい新NISAが利用されたのか、確定データを見てみましょう。日本証券業協会のデータ(NISA口座の開設・利用状況2024年12月末時点)によると、2024年の買付総額は以下の通りです 。

【2024年 新NISA買付総額】
・合計:約17兆3,821億円 (1ヶ月平均 約1.4兆円)
内訳① 成長投資枠: 12兆4,144億円
※投資信託:株式=52%:48%
内訳② つみたて投資枠: 4兆9,677億円
1ヶ月に約1.4兆円ものお金が投資に回っています。これはものすごい規模です。 しかし、ここで重要なのは金額の大きさよりも、「そのお金がどこに投資されたか」です。
【独自試算】そのうち「海外」に流れたお金はいくら?
公表されているデータには「海外への投資額」がズバリとは書かれていません。 そこで、現在の市場の傾向(オルカンや米国株の人気ぶり)を元に、独自に「海外流出額」を計算してみました。
【計算の前提(推定値)】
- つみたて投資枠: 人気ランキング上位が外国株のため、80%が海外へ。
- 成長投資枠(投資信託): ここでも外国株人気が高く、70%が海外へ。
- 成長投資枠(株式): 日本の高配当株などが人気のため、海外へは10%のみ。
※実際に最新データ(2025年1-6月)でも成長枠の株式購入の91%は国内株でした 。
この条件で計算すると、驚きの結果が出ました。
【新NISAからの海外流出額(試算)】
- つみたて投資枠から: 約4.0兆円
- 成長投資枠(投信)から: 約4.5兆円
- 成長投資枠(株式)から: 約0.6兆円
★ 合計: 約9.1兆円 ★
なんと、新NISAで動いたお金の半分以上、約9.1兆円が日本円から外貨(ドルなど)に変わって海外へ出ていった計算になります。 これを月平均にすると、毎月約7,600億円が海を渡っていることになります。
【コラム】「全世界」といっても、中身はほぼ外国!
「『全世界株式』なら、日本にも投資しているから安心では?」 そう思う方もいるかもしれません。しかし、代表的な投資信託(eMAXIS Slim 全世界株式など)の中身を見てみると、実態は以下の通りです。
- S&P500: 100% アメリカ(海外)
- 全世界株式(オルカン): 約95% が海外(日本株はわずか約5%)
つまり、「みんながオルカンを買う = その代金の95%が海外へ流出する」 という構造になっています。人気商品がこれだけ「海外偏重」であることが、9.1兆円という巨額流出の背景にあるのです。
「9.1兆円」ってどれくらい凄いの?(日本の赤字比較)
「9兆円」と言われても、金額が大きすぎてピンとこないかもしれません。 日本経済が抱える他の「赤字(海外への支払い超過)」と比べてみましょう。2024年のデータで比較します。

- 貿易赤字(モノの赤字): 約6.5兆円 エネルギー(石油・ガス)や食料の輸入などで、日本が支払ったお金の超過分です。(※参考:財務省 令和6年中 国際収支状況(速報)の概要)
- デジタル赤字(サービスの赤字): 約6.5兆円 Google、Amazon、Netflix、iPhoneアプリなどの利用料や広告費として、海外企業へ支払ったお金です。 (※参考:24年「デジタル赤字」6兆円超/四国新聞社)
そして、今回の試算結果を並べてみます。
- 新NISAによる流出(投資の赤字): 約9.1兆円(今回試算)
衝撃の事実です。 ニュースで「原油高で貿易赤字が大変だ」「デジタル赤字が拡大している」と騒がれていますが、実は新NISAによる海外投資の方が、金額規模が大きい可能性があるのです。
なぜこれが「円安」につながるの?
私たちがスマホでポチッと「オルカン」や「S&P500」を買うとき、裏側では以下のようなお金の動きが発生しています。
- 私たちの銀行口座から「日本円」が引き落とされる。
- 運用会社(プロ)がその「円」を売って「ドル(などの外貨)」を買う。
- そのドルで海外企業の株を買う。
つまり、新NISAで海外投資をするということは、「日本中のみんなで、毎月7,600億円分の『円売り・ドル買い』注文を出している」のと同じことなのです。
特に「つみたて投資」は、為替が円安だろうと円高だろうと、毎月決まった日に自動的に買い付けが行われます。 これを専門家は「オートマチックな円売り」と呼んでおり、円安がなかなか止まらない(円の価値が上がりにくい)大きな構造的要因の一つになっています。
また、「買った後に売って日本円に戻しているのでは?」と思うかもしれませんが、2024年の売却額は、成長投資枠で約2.1兆円、つみたて投資枠ではわずか約1,800億円に留まっています 。 今のところ、お金は「海外へ出っ放し」の状態に近いと言えます。

まとめ:私たちはどうすればいい?
「日本のお金が流出しているから、新NISAで海外投資をやめるべき?」
決してそうではありません。私たち個人にとって最も大切なのは、「自分と家族の生活を守り、資産を増やすこと」です。
今回のデータから学ぶべきポイントは3つです。
- 円安は構造的なもの 貿易、デジタル、そして新NISA。これだけ「円を売る」要因が揃っている以上、昔のような「超円高」には戻りにくい時代になっています。
- 「円」だけで持つリスク 日本円の価値が相対的に下がりやすい今、資産の一部を海外(外貨)に逃がしておく新NISAの動きは、個人の資産防衛策としては「正解」と言えます。
- 国内株にも目を向ける とはいえ、過度な円安は輸入品(ガソリンや食料)の高騰を招き、私たちの生活を苦しくします。 成長投資枠などを活用して「日本の優良企業」にも投資することは、リターンの獲得だけでなく、巡り巡って日本経済や自分の生活環境を守ることにもつながるかもしれません。
新NISAの海外投資は、個人の資産形成には不可欠ですが、日本経済全体にとっては「円安の強力なアクセル」になっています。
「なぜ円安なんだろう?」と思ったとき、この9.1兆円の数字を思い出してみてください。仕組みを知った上で、冷静に投資を続けていきましょう。
【もっと詳しく知りたい方へ(少し専門的なお話)】
今回、分かりやすさを優先して「海外投資額=円売り」として解説しましたが、厳密な市場メカニズムとしては以下の点も考慮する必要があります。
・為替ヘッジの影響: 投資信託の中には「為替ヘッジあり」の商品もあり、これらは直ちに円売りにはつながりません(ただし、人気商品の多くはヘッジなしです)。
・資産の再配分: 運用会社が新たに円を売るのではなく、既に保有している外貨建て資産を割り当てるケースなどもあります。
したがって「9.1兆円すべてが即座に円売り注文になった」わけではありませんが、新NISAが巨額の「日本から海外への資金移動」を生み出し、為替市場に対して強い円安圧力(円売り需要)となっているトレンド自体は、多くの専門家が指摘している事実です。
