「その仕事では、どのくらいのお金を稼げるのだろう?」
職業調べに金融教育を組み合わせると、最初に思い浮かぶのは「年収を調べること」かもしれません。
もちろん、収入は仕事を知るうえで大切な情報です。ただ、金額だけを加えると、仕事を収入の多い・少ないで比べる学習になってしまう可能性もあります。
今回訪問した小学校では、6年生がすでにさまざまな仕事について調べており、その後は自分の将来やライフプランについて考える予定でした。
そこで求められたのが、職業調べとライフプランを「お金」でつなぐ授業です。
限られた40分の中で、仕事・お金・未来をどのように結びつければよいのでしょうか。
職業調べとライフプランの間に「お金」を置く
今回の授業で大切にしたのは、金融教育を新しい単元として加えないことでした。
金融教育だけで完結させるのではなく、児童がこれまで学んできたことと、これから学ぶことの間に置きます。
今回の流れを簡単に表すと、次のようになります。
職業について調べる
→仕事とお金の関係を考える
→自分の未来や生き方を考える
職業調べでは、仕事内容、必要な資格、働く場所などを調べます。しかし、それだけでは、その仕事が社会の中でどのような役割を果たし、お金とどう結びついているのかまでは見えにくいことがあります。
一方、ライフプランでは、将来の進学や仕事、暮らしについて考えます。ただし、職業調べとライフプランが切り離されていると、「調べた仕事」と「自分の未来」がうまくつながらないこともあります。
その間に「お金」という視点を置くことで、仕事が社会や自分の生活とつながって見えてきます。
金融教育は、それだけで主役になるのではなく、学校ですでに行われている学習を深める「スパイス」にもなります。
40分をつないだ3つの問い
授業では、たくさんの知識を伝えるのではなく、3つの問いを中心に進めました。
人は何のために働くのだろう?
「働くのは何のためですか」と聞かれたとき、まず思い浮かぶのは「お金を稼ぐため」という答えではないでしょうか。
生活するために収入を得ることは、働く大切な目的の一つです。
そこから、もう一歩考えます。
その仕事は、誰の役に立っているのでしょうか。どのような困りごとを解決しているのでしょうか。
医療、教育、建築、販売、運送など、どの仕事も誰かの生活を支えています。身近な商品やサービスの裏側にも、さまざまな仕事があります。
職業名や仕事内容を調べるだけでなく、「その仕事は誰を助けているのか」という問いを加えることで、仕事の見え方が変わります。

支払ったお金は、どこへ行くのだろう?
次に考えたのは、買い物などで支払ったお金の行き先です。
私たちが支払ったお金は、その場で消えてしまうわけではありません。
商品を販売する人だけでなく、商品をつくる人、材料を用意する人、運ぶ人など、さまざまな仕事へつながっていきます。
一つの商品やサービスが自分の手元に届くまでには、多くの人が関わっています。そして、支払ったお金は、その人たちの仕事や生活を支えるお金として巡っていきます。
この流れを考えることで、仕事とお金を別々のものではなく、社会の中でつながっているものとして捉えられるようになります。
未来の自分には、どんな準備が必要だろう?
最後に、視点を未来へ移しました。
なりたい仕事に近づくためには、どのような勉強や経験が必要なのでしょうか。
仕事によっては、進学、資格の取得、道具の購入などが必要になります。学ぶ場所や働く場所によっては、住まいや生活について考えることも出てきます。
もちろん、小学生の段階で正確な費用を計算する必要はありません。
大切なのは、「お金がかかるから無理」と考えることではなく、夢に近づくために、いつ、どのような準備が必要になるのかを知ることです。
お金を夢の制約としてではなく、これからの選択肢や準備を考えるための材料として扱いました。
40分で、どこまで扱うか
授業のおおまかな時間配分は、次のように考えました。
- 0~5分:これまでの職業調べを振り返る
- 5~12分:人は何のために働くのかを考える
- 12~25分:支払ったお金の行き先を考える
- 25~35分:将来に必要な準備を考える
- 35~40分:授業を振り返り、次の学習へつなぐ
40分ですべてを詳しく教えることはできません。
そこで、職業ごとの年収を細かく比較したり、将来必要になる費用を正確に計算したりすることは、授業の目的にしませんでした。
ライフプランを授業中に完成させることも目指していません。
児童が授業後に、「もっと調べてみたい」「自分の場合はどうだろう」と考えられることを大切にしました。
出前授業だけで答えを出すのではなく、次の授業へ問いを渡す。そのように考えると、40分という限られた時間でも、学校の学習につながる授業を設計できます。
単発の出前授業にしないための事前準備
今回の授業を組み立てるうえでは、先生方との事前のすり合わせも重要でした。
確認したのは、主に次のような内容です。
- 児童はこれまでに何を学んでいるか
- 授業後は、どのような学習へ進むのか
- 学校ですでに扱っている内容は何か
- 今回、特に深めたい内容は何か
- ワークシートには、どの程度記入させるか
- 意見の共有や先生方の支援をどう組み込むか
出前授業では、講師が用意した内容をそのまま話すこともできます。
しかし、それでは学校の学習から切り離された、単発のイベントになってしまうかもしれません。
「授業の前に何を学んでいるのか」と「授業後に何を考えるのか」を確認することで、外部講師の授業も総合学習の流れの中に位置づけやすくなります。
金融教育は、学びと学びをつなぐことができる
職業調べと金融教育をつなぐために、特別な制度や難しい金額を教える必要はありません。
「その仕事は誰の役に立っているのか」
「支払ったお金はどこへ行くのか」
「未来の自分には、どのような準備が必要なのか」
この3つの問いを加えることで、職業調べは、仕事の情報を集めるだけの学習から、仕事・お金・未来を自分事として考える学習へと広がっていきます。
金融教育は、金額や制度を教えるだけのものではありません。
学校ですでに行われている学びと学びをつなぎ、児童が自分の未来を考えるための視点を加えることも、金融教育の大切な役割だと感じました。

