学習指導要領の改訂により、「金融教育」が中学校でも重要なテーマとして注目されています。とはいえ、「お金の話って難しい」「どこから手を付ければいいかわからない」という声も多く聞かれますよね。お金のはなしは大切なことと思いつつも、わが子にすら上手く伝えることは、難しいのが現状ではないでしょうか。
この記事では、金融教育に初めて取り組む先生方に向けて、授業の準備に役立つ基本的な知識とポイントをわかりやすく解説します。「金融教育」と「消費者教育」の違いに触れつつ、金融教育の効果や役割をお伝えします。
【授業のポイント】
・改訂の背景となる世の中の変化をおさえる
・金融教育と消費者教育をバランスよくすすめる
・難しいところは思い切ってアウトソーシングする
金融教育と消費者教育の違い

金融教育は、生き方やキャリア形成の基礎となる「お金の知識」を学ぶものです。いっぽう消費者教育は、日常生活でのトラブルを防ぐための実践的な知識を身につけることを目的とします。
例えば、金融教育では「将来の働き方」や「お金の運用」などを中心に、人生設計に向き合います。消費者教育では「契約トラブルへの対処」や「正しい商品選び」などの日々の暮らしを、安心・安全に過ごすために学びます。両者は異なる目的を持ちながらも、補完的な関係にあります。
「金融教育」については、まずお金に関する「身近なテーマを語り合い、考える場」として進めていきましょう。授業を通して、知識の習得だけでなく、自由に発言し合い、理解を深めていくことがポイントです。
改訂の背景と授業に向けた心構え
新しい指導要領ではグローバル化を掲げ、目標がより明確化されています。一人ひとりの実行力、つまり生きる力を養い、よりよい社会をつくることを目指しています。

引用元:文部科学省 中学校学習指導要領比較対照表
経済においては、成長できる国と低迷する国の格差が明確になっています。グローバル化に乗り遅れた日本は、世界に占めるGDPの割合で4.0%(2023年)まで低下しています。最も高かった時期は、バブル期で10%を超えていました。その後も2005年までは10%以上の割合でしたが、翌2006年から一桁台となり、今に至っています。中国の16.8%(2023年)から見ると、当時の日本経済の勢いを想像できます。

経済の低迷とともに、少子高齢化が進み、社会保障制度を中心に財政を圧迫しています。国民一人ひとりが自立して社会を担っていくことが求める時代となりました。

インターネットで「金融教育」と検索すると、銀行や証券会社のサイトが中心で、投資教育にフォーカスされています。投資に関する教育は必要ですが、金融教育の一部であり、キャリア形成や消費者教育とバランスよく取り組むことが大切です。
自分が稼いだお金をどう増やすかだけでなく、入ってくるお金、使ったお金、投資したお金がどのように社会を循環していくか、なども考えながら進めていけると、なお良いでしょう。
金融教育は、社会科や家庭科を中心にカリキュラムとして導入されていますが、各科目の授業にとらわれすぎないことがポイントです。朝の会、総合学習、特別活動、修学旅行でもよいので、お金に関する身近な話題に触れる機会をたくさん作ってみてください。
金融教育は、お金や金融の様々な働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である。
引用元:知るぽると 金融広報中央委員会
次に、金融教育に取り組むことによる効果をまとめます。
金融教育の3つの効果
「金融教育」は将来の働きがいや、生きがいにつなげることを目標としています。具体的には、以下の3つの効果があげられます。
勉強や習い事への意欲が高まる
テストや受験にむけて勉強することに疑問を感じたり、部活動などの練習を続けていることが辛くなったりすること、ありますよね。お金について学ぶことは、生徒自身が将来の「働き方」や「生き方」を考えるきっかけとなります。10年後、20年後の「ありたい姿」は、毎日の積み重ねの結果ですから、これにより、日々の勉強や部活動への取り組みがより前向きになります。
社会人に聞いた「大人になって役に立っていると思う学校の教科」
1位:国語
文章力はどんな仕事でも必要
仕事でしゃべるときも国語の力は直結している
2位:数学
計算は日常でよく使うから
論理的に考えることができるから
3位:英語
会社に外国人が多いので英語は大事
海外でのお客さんとの会話に役立つ
4位:家庭科
自炊ができた
生きるすべを学んだと思う
5位:社会
世の中の動きについて敏感になれる
新聞に書かれている内容を理解することができた引用元:『なぜ僕らは働くのか』発行 ㈱学研プラス 監修 池上彰
自立への気づき
「自分でお金を稼ぎ、使う」プロセスを考えることで、生徒は自立への意識を高めます。ライフプランニングを通じて、自己の価値観や目標を明確にする力が育まれます。
お金を稼ぐことは、仕事内容や職業に大きく左右されます。そして充実した人生を送るためには、稼いだお金の使い方や、運用方法を都度決めていくことが求められます。ライフスタイルからお金の使い方に違いがうまれ、そのお金がどのように人の役に立っていくかを一緒に考えらるとなお良いでしょう。
仕事や職業の選択については、生徒自身が得意なことや興味があることを活かして、社会に貢献できたときのイメージも授業で共有してみましょう。
社会とのつながりを理解する
人は一人では生きていけません。金融教育は、助け合いや共生の大切さを学ぶ場でもあります。お金が社会でどのように循環し、人々を支えているかを知ることで、SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた意識が芽生えます。
SDGsの取り組みとして「金融教育」が、持続可能な社会づくりを担う役割は多岐にわたります。特にゴール1の貧困をなくす、ゴール3の福祉の推進、ゴール5のジェンダー平等、ゴール8の働きがい・経済成長に「金融教育」は不可欠です。
金融教育が求められる背景:日本社会の3つの変化
高齢化と価値観の変化
日本は世界一の高齢化社会に突入しており、生徒たちが働く未来は、今よりもさらに多様な働き方が求められる時代です。
今の中学生が社会の第一線で活躍する2040年頃には、65歳以上の人口割合が35%を超え、諸外国も高齢化が社会問題となっていること予想がされています。(総務省2021年9月15日時点推計)

投資家が企業へ出資をするときには、ESGやGXなどに関する取り組み状況を重要視するようになりました。持続可能な社会に向けて、価値基準の変化が始まっています。
【ESGとは】
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指す。
出典:内閣府ホームページ
【GXとは】
GXとはグリーントランスフォーメーションの略。簡単に言うと、化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことです。
出典:経済産業省ホームページ
キャッシュレス化と経済のグローバル化
QRコード決済や電子マネーなどの普及により、現金を使わない時代が進行中です。キャッシュレス化により、お金の価値や使い方をあらためて再認識する必要性があります。

教育現場におけるICTの普及
新型コロナウイルス感染拡大により、GIGAスクール構想(一人一台のPC、タブレットでICT通信技術を活かしたコミュニケーション)が一気に普及しました。現場では、環境変化の途上にあり、先生方が感じる課題は多いようですが、金融教育はデジタル化と相性が抜群です。デジタル教材やシミュレーションツールを活用することで、取り組む環境はますます整ってくるでしょう。
【教職員の感じる課題】
・リテラシーの高い特定の教職員に業務負担が偏る(59.4%)
・教科担当での ICT の効果的な活用方法がわからない(48.9%)
・教職員向けの ICT 環境が整備されていない(38.1%)出典:令和3年9月3日GIGA スクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について
金融教育を進める上での課題と解決策
金融経済教育を推進する研究会の調査から、授業をするときの課題はすでに明確になっています。
課題1:教材や時間が限られている
解決策:動画や専門家の活用
下記の調査からは、「現行の教育計画に余裕がない」が突出して、その理由にあげられています。動画教材や外部講師の出前授業を活用し、効率よく知識を提供しましょう。YouTubeなどで探すと良質な教材が多数見つかります。人気の動画は飽きさせない工夫がされているので、学校やクラスに合ったものをいくつか探してみてはいかがでしょうか。
【教育現場の課題】
(赤字・青字:2014年調査比較)
①教科書の記述が不十分
消費者教育
・クレジットカード関連(41.3%)0.4ポイント悪化
・計画的な金銭管理(24.4%)6.7ポイント悪化
※年金制度35.0%、リスク管理29.1%(2014年調査実績)
金融教育
・株式市場の役割(15.4%)22ポイント改善
・フィンテック(53.3%)(2022年調査実績)
・起業に関する金融(49.2%)(2022年調査実績)
※保険の働き(34.7%)(2014年調査実績)
②授業時間の不足
・現行の教育計画に余裕がない(82.1%)2.6ポイント改善
・教える側に専門的知識が足りないため(32.6%)0.1ポイント悪化
・他により重要な学習内容があるため(16.8%)8.5ポイント改善
③学習内容の問題点
・用語・制度の解説が中心となり、実生活とのつながりを感じにくい(52.3%)3.3ポイント改善
・知識は身につくが、思考力が身につきにくい(28.9%)13.2ポイント改善
※2014年調査「知識は身につくが、能力や態度が身につきにくい」
・金利や金融商品の種類、リスクとリターンの関係など、実践的な知識が少ない(24.7%)19.7ポイント悪化出典:金融経済教育を推進する研究会 2022年10月24日 中学校(教員・生徒)における金融経済教育の実態調査結果について
課題2:教員自身の知識不足
解決策:外部リソースの活用
今回の調査からおよそ3人に1人は、「教える側に専門的知識が足りないため」と、不安を感じているようです。
学校内に知識がない場合は、地元の金融機関や専門家に協力を依頼することも一つの方法です。
注意すべき点としては、せっかく授業を行っても、実生活とつながりがなければ効果が薄れてしまいます。学習指導要領で求めれていることと、教科書に載っている情報を、外部のリソースでどうリンクさせるかもポイントです。
外部の講師や専門家を招くときは、事前の打ち合わせが大切です。丸投げするのではなく、目的や意図、生徒たちの関心事などを共有しておくと、授業が進めやすくなり、理解も深まります。

まとめ
金融教育は、生徒たちに「生き方」「働き方」「社会とのつながり」を考える機会を提供します。知識や経験に不安があれば、先生方がすべてを教えようとするのではなく、外部の機関や専門家などへアウトソーシングして、授業をプロデュースすることも重要です。地域や社会の協力を得ながら進めていけば、生徒たちにとってもよい体験ができます。
生徒とともに学び、生徒の主体性を引き出せる授業づくりを目指してみてください。
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