中学3年生の公民で学習する「国債」。
突然子どもから質問されたら、大人でもうまく説明することが難しいのではないでしょうか?
「国の借金なんだよ~」と伝えるだけでは、少し物足りない感じがしますよね。
今回は金融教育の一環として、国債をわかりやすくお伝えします 。
簡単に言うと、日本の政府がお金を借りるときの借用証書です。
日本経済のしくみや財政、社会保障の理解にもつながりますので、ぜひご覧ください。
<授業のポイント>
・国債の基本的なしくみを理解する
・個人で買える国債を知り、投資への関心度を高める
・財政状況を通して、生徒それぞれが感じた日本の課題を共有する
【SDGs】ゴール③④⑧
国債とは
国の借金のあかし
国債は、政府が公共事業や公共サービスをおこなうにあたって資金が足りない時、お金を借りるために発行する借用証書です。「公共事業」は、道路や公園、上下水道をキレイに保ち、快適に暮らすために行われるもの。「公共サービス」は、医療費の負担をはじめ、介護や福祉など最低限の生活ができるための仕組みです。
では、誰が政府にお金を貸してくれるのでしょうか?
答えは、国債を買う人たちです。主な購入者は銀行や保険会社、証券会社など「機関投資家」といわれる金融機関です。国債を買うこと(=お金を貸すこと)によって、債券(=借用証書)を受け取ります。ちなみに、購入は1億円単位です。
毎年利子がもらえる
お金を貸してることと同じなので、まず預金のように定期的に利子がもらえます。利子は1年に1回か2回のことが多いです。利子の割合は発行時期ごとに違いますが、満期(2〜40年)になるまで、ずっと決まった日に変わらず支払われます。(2024年9月6日発行の場合:期間10年の国債は利率0.8% 財務省ホームページより)一度買った国債は、期間の途中でも自由に売買できます。
政府収入の1/3が国債
税収(下記、一般会計歳入総額)では、予算の2/3しか賄えておらず、1/3が国債に依存しています。誰かが国債を買ってくれないと、政府が行うサービスの1/3が出来なくなるというわけです。
金利はヒアリングで決まる
新しく発行される国債の金利は、財務省により決定されます。(発行元は日銀ですが、手続きは財務省が担当します)財務省としては利子の支払いを少なくするために、できるだけ低い利率にしたいですが、金利動向や投資家ニーズを無視しては、安定して国債を買ってもらうことが難しくなるため、発行直前まで調整をしています。
発行の前日までに、国債を買う主要な関係者に対しヒアリングを行います。そこで投資家の需要や各金融機関などと、どの程度の金額で買ってくれるのか?適切と考える率はどの程度なのか?を聞いた上で、当日の状況も踏まえて最終的な国債利率を決定します 。
金融政策(公開市場操作)を解説
日本銀行(以下、日銀)の主な金融政策のひとつでもある「公開市場操作」は、公民で学習するキーワードですね。発行する日銀は原則、国債を直接買うことができません。日本の中央銀行(=日銀)が「紙幣の発行」と「お金の貸し出し」双方を行ってしまうと、政府の思うままに借金ができてしまうからです。
ただし、金融機関などの投資家が持っている国債を売ってもらうことはできます。実は発行済み国債の保有割合については、日銀が最も多く、2024年3月時点で約53%です。2010年代前半まで10%台だった日銀の国債の保有率は急激に上がりました 。
これは政策の一環として、2013年4月から銀行などが持っている国債を日銀が買い続けた結果です。(後述:「買いオペ」)
銀行が国債を売って得たお金をもとに、企業への貸出を増やし、借りた企業が設備投資を行って、利益が増えれば従業員の給料が上がります。すると個人消費が増えて、景気が良くなり、結果的に国の税収が増えるというシナリオです。
このような政策は「公開市場操作」と呼ばれ、日銀の重要な役割の一つです。日銀が国債を買い入れることを資金供給オペレーション(買いオペ)、国債を売ることを資金吸収オペレーション(売りオペ)といいます。
個人向け国債についても知っておこう
誰でも1万円から買える
個人向け専用の国債もあり、「期間」と「金利」が異なる三つの商品(固定金利型3年債、固定金利型5年債、変動金利型10年債)から選べます。毎月募集されており、投資金額1万円から1万円単位で買うことができます。
購入金額に上限はありません。 金利は直近の同期間の国債利回りを基準に、最低でも0.05%の金利が保証されています。ちなみに、令和6年9月の個人向け国債の利率は、固定金利型3年債が0.38%、固定金利型5年債が0.51%、変動金利型10年債が0.61%です。※利率は税引前
個人向けの国債は発行から1年過ぎると、期間中でも換金できる(政府が買い取ってくれる)ことが最大のメリットです。直近2回分の各利子×0.79685は差し引かれますが、必ず額面100円で戻ってくるので元本は保証されます。銀行に預けるよりは利回りがよいので、リスクを取りたくない安定志向の個人投資家には人気があります。
個人が買える国債としては、他にも「新窓販国債」があります。こちらは個人だけではなく、法人やマンションの管理組合なども買うことができます。
また1年間の換金できない縛りがないかわりに、国の買い取り制度はありません。いつでも換金できますが、買い手の希望価格で売却となるため、元本割れのリスクがあります。
897の金融機関で取り扱い
証券会社、銀行、農林中央金庫、農協、信用組合、信用金庫、労働金庫など様々な金融機関(その数897(2024年9月15日時点)で取り扱っています。詳しくは財務省のサイトにありますので、興味があればチェックしてみて下さい。同じ銀行でも対象外の店舗がある場合や、地方銀行などの小さな金融機関では取り扱いがないこともあります。
1,053兆円も国債発行して大丈夫なの?
増えつづける国債(借金)を懸念する声
令和5年度末時点で、日本政府の借金(=日本国債の発行残高)は1,053兆円です。さらに令和6年度末には、1,105兆円まで増えると財務省は公表しています。(財務省 国債等関連資料より)いつか返せなくなって、日本が破綻しないかと不安に思う人もいるでしょう。
税収だけで国家運営できれば、政府は国債を発行する必要はありません。税金だけでは支出を賄えないので国債を発行します。毎年新しい国債を発行しても、買い手がいる限りは過去の国債を返せないことはありません。(詳しく知りたい方は「借換債」をご確認ください)
とはいえ買い手がいなくなると、デフォルト(経営破綻)の危機になり、最悪の場合は保有している国債が紙くずとなり、元本が戻らないこともあります。
日本の国債は、ほとんどが国内投資家によって引き受けられています。金利は高くありませんが、安全な資産として海外投資家からの信用も高いです。 S & P では A +、ムーディーズでは A 1に格付けされており、これは投資適格10段階の5番目です 。AAA だった90年代からは徐々に下がっています。アメリカやヨーロッパの主要国の国債は、日本国債より上位にランク付けされています。
財政破綻はありえないという考え方
(少し深堀りしますので、お付き合いください)
いっぽうで借金は増え続けるが、財政破綻はあり得ないという考え方もあります。公開市場操作(買いオペ)で説明したように、政府が発行した国債は金融機関から日銀へわたります。日銀は、政府から55%の出資を受けていて、完全子会社化されているような状態です。政府が発行している国債(政府の債務)のうち約500兆円を保有しています。
「統合政府バランスシート」とは、親会社と子会社の資産と負債を合体させる、つまり政府の負債である国債と、日銀の資産である国債は相殺されるので、国債が増えても問題ないという考え方です。さらに詳しく知りたい方は「MMT(現代貨幣論)」と検索してみてください。
データから考える実践ワーク
以上の現状をふまえて、授業のなかで意見を出し合ってみましょう。一人ひとりの感じ方はさまざまだと思います。正しい答えはありません。生徒から難しい質問があったら、その場で一緒に調べたり、みんなで考えたり、和やかな雰囲気づくりを心がけてみて下さい。
質問例①:政府の収入と支出のバランスをみてどう感じましたか?
【想定される回答】
・借金が増えていくので心配だ
・税金は上げてほしくないけど、必要なことに使われていることがわかった
・社会保障のためにたくさんの予算が充てられていて驚いた
【ポイント】
借金(国債発行)、税金、社会保障費用の3点にフォーカスすると、答えやすくなります。
質問例②:お金があったら「国債」を買ってみたいですか?
【ポイント】
銀行の金利動向をふまえて、投資について関心度を高めていきましょう。実際に定期預金や社債、株式の配当金などと比べてみましょう。
質問例③:日本の課題(財政赤字)を解決するためには何をすべきか?
【想定される回答】
・予算に無駄がないか、ちゃんと確認する必要がある
・企業の業績がよくなり、法人税が増えると政府の収入が増える
・給料がたくさんもらえれば、消費(納税)が増える
・社会保障費用を少なくするために、健康を大切にする
【ポイント】
国債の発行を減らすためには、税金を増やすこと、社会保障費用など支出を減らすことがあげられます。いっぽう費用対効果の観点から、もっと有意義な国債のあり方も考えてみましょう。
子育てや教育などへの予算取りは、将来への投資であり、社会的に大きなリターンが期待できます。18歳からの選挙権を視野に入れ、今後の政策の良し悪しを判断する力も養えます。
※無形資産への国債発行はまだ認められていない。財政法の改正が必要。
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・この〇〇な部分がわからない
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