職業について調べると、夢に近づくための方法だけでなく、必要になるお金も見えてきます。
学校で学ぶためのお金、資格試験を受けるためのお金、道具や材料をそろえるためのお金、練習やレッスンを続けるためのお金。目指す仕事によっては、交通費や、将来お店を開くための費用が必要になることもあります。
検索結果に表示された大きな金額だけを見て、児童が「そんなにお金がかかるなら無理」と受け止めてしまったら、せっかくの職業調べが、夢を閉じる材料になってしまいます。
しかし、そのお金は、本当に一度に必要なのでしょうか。
いつ、何のために必要になるのでしょうか。別の学校や学び方、仕事への進み方はないのでしょうか。そして、小学生の今から準備できることはないのでしょうか。
今回のオンライン授業では、児童が調べた勉強、学校、資格、経験、費用などを、小学生から大人までの年表に整理しました。
年表を作れば、お金の問題がすべて解決するわけではありません。費用という現実を見えなくするものでもありません。
一つの大きな金額だけで夢を「できる・できない」に分けず、必要な準備を時間軸で考えること。それが、今回の年表づくりの目的でした。
大きな金額だけでは、夢までの道のりが見えない
職業調べでは、仕事内容や必要な資格とともに、学校の学費や資格取得までにかかる費用を調べることがあります。
そこで、例えば数年間の学費を合計した金額だけを見ると、小学生にとっては、普段の生活からかけ離れた大きな数字に感じられます。
その金額を、今すぐ用意しなければならないように受け止めてしまうこともあるでしょう。
けれども、夢に近づくために必要なお金は、一つの時期に、同じ目的で使うものではありません。
小学生のうちに必要になる道具や体験の費用もあれば、中学生や高校生になってから必要になる交通費や練習費もあります。卒業後に専門的な学校で学ぶ費用や、仕事に就く時に必要になる資格や道具の費用もあります。
また、同じ仕事を目指していても、選ぶ学校や学び方によって金額は変わります。
費用を一つの総額として見るだけでは、「いつ」「何のために」「どのような準備が必要なのか」が見えません。
そこで、調べた費用を、夢までの時間の流れに置き直すことにしました。
費用を「いつ・何のために」に分けて年表へ置く
今回のワークシートでは、夢までの道のりを、次の六つの時期に分けました。
- 小学生
- 中学生
- 高校生
- 卒業後
- 仕事につく時
- 大人になってから
そして、それぞれの時期について、必要になる勉強、練習、学校、資格、経験、お金を整理していきます。
年表の基本的な形は、次のようなものです。
| 時期 | 必要な学び・経験 | どのようなお金が必要か |
|---|---|---|
| 小学生 | ||
| 中学生 | ||
| 高校生 | ||
| 卒業後 | ||
| 仕事につく時 | ||
| 大人になってから |
例えば、同じ「道具にかかるお金」でも、いつ必要になるかは仕事によって違います。
スポーツに関わる仕事であれば、小学生のうちから練習道具が必要になるかもしれません。料理やパンづくりに関わる仕事であれば、専門的に学ぶ時期や、将来お店を開く時に、道具や材料が必要になることがあります。
学校や資格の費用についても、今すぐ必要になるわけではありません。
いつごろ必要になるのかが分かれば、それまでに調べ直したり、家族や先生に相談したり、別の進み方を探したりできます。
費用を年表に置くことで、「大きなお金がかかる」という一つの情報が、「いつまでに、何を調べ、何を準備するか」という複数の問いに変わっていきます。
年表づくりは、三段階の調査から始める
いきなり年表の空欄を埋めようとしても、何を書けばよいのか分からなくなることがあります。
そこで今回の授業では、年表に整理する前に、三つの段階に分けて調査を進めました。
最初に考えたのは、「その仕事は、誰に何をして喜んでもらう仕事なのか」です。
仕事の名前だけでなく、誰のどのような困りごとを助けたり、どのような楽しさや価値を届けたりする仕事なのかを考えます。
次に、その仕事に近づくために必要なことを調べます。
勉強、練習、学校、資格、経験、作品づくりなど、必要な準備は仕事によって異なります。資格が大きく関係する仕事もあれば、技術や実績を積み重ねることが重要な仕事もあります。
その後で、「お金はいつ、何に必要になるのか」を調べます。
学校、試験、資格、道具や材料、練習やレッスン、交通費、将来の開業など、見つけた情報を時期ごとに分け、年表へ置いていきます。
流れを整理すると、次のようになります。
- 誰に、何をして喜んでもらう仕事なのかを考える
- 必要な勉強、練習、学校、資格、経験を調べる
- お金が、いつ、何に必要なのかを調べる
- 調べた内容を年表に整理する
- 一人ひとりが「明日からの一歩」を考える
- 考えたことを、定型文を使って共有する
前回の記事で紹介した「調査スタートガイド」は、児童が必要な情報を探し始めるための足場でした。

今回の年表は、その情報を時間の流れに沿ってつなぎ、夢までの見通しを持つための道具です。
正確な金額を当てることが目的ではない
学費や資格取得費などを調べると、具体的な金額が表示されます。
しかし、小学生が将来実際に進む学校や学び方は、まだ決まっていません。同じ種類の学校でも、地域や学校、学ぶ期間によって費用は異なります。児童がその年齢になるまでに、金額や制度が変わることもあります。
そのため、この授業では、将来かかる費用を正確に計算することを目的にしませんでした。
費用の大きさを段階で捉え、判断できないものについては「まだよく分からない」として残します。
空欄や「分からない」があることは、失敗ではありません。
むしろ、次に何を調べればよいのかが見つかった状態です。
大切なのは、次のようなことを考えることです。
- そのお金は、いつ必要になるのか
- 何のために使うお金なのか
- その学校、資格、道具は必ず必要なのか
- ほかの進み方や学び方はないのか
- 今の情報で分からないことは何か
一円単位まで正しい金額を出すことよりも、費用の目的と時期を捉え、次の調査につなげることを重視しました。
年表は、一本道の進路を決めるものではない
年表という言葉から、一つの決められた道を順番に進む姿を想像するかもしれません。
しかし、実際のキャリアは一本道ではありません。
同じ仕事でも、大学や専門学校で学ぶ方法、働きながら経験を積む方法、自分で作品や技術を磨く方法など、さまざまな進み方があります。
ゲームクリエイターのように、一つの職業名の中に、企画、プログラム、デザイン、音楽など複数の役割がある仕事もあります。料理やパンづくりに関わる仕事でも、お店で経験を積む道、学校で学ぶ道、将来自分のお店を持つ道などがあります。
調べる中で、自分が最初に考えていたものとは違う役割や進み方に気づくこともあります。
その場合は、年表を書き換えて構いません。
年表は、未来を固定する計画表ではなく、現時点で分かったことを整理する下書きです。
新しい情報が見つかったときや、興味が変わったときには、何度でも書き直せます。
「この道しかない」と決めるのではなく、「このような道もある」「ここで別の選択もできる」と気づくことに意味があります。

グループで調べ、最後は一人ひとりの「明日からの一歩」へ
今回の授業では、児童は将来なりたい職業をもとにグループに分かれ、必要な学校、資格、経験、費用などを協力して調べました。
同じ仕事に関心を持つ児童同士であれば、見つけた情報や疑問を共有できます。一人では見つけられなかった進み方を、ほかの児童が見つけることもあります。
一方で、同じ職業を目指していても、今の自分にできることは一人ひとり違います。
そこで、グループで年表を考えた後、最後は自分自身の「明日からの一歩」を考えました。
例えば、次のような行動です。
- 興味のある仕事について本を読む
- 好きなことや練習を続ける
- 体力や技術を身につける
- 友達や家族、地域の人と話し、コミュニケーションする力を磨く
- その仕事をしている人に話を聞く
- 調査で分からなかった言葉を、もう一度調べる
遠い将来に必要になる大きな金額だけを見ていると、小学生の自分には何もできないように感じます。
しかし、年表を小学生の今まで戻って見れば、お金をかけなくても始められることや、日々の生活の中で積み重ねられることも見えてきます。
年表づくりの着地点は、将来の費用を計算することではありません。
夢と今の自分をつなぎ、「まず何をするか」を自分の言葉で考えることです。
先生が評価するのは、夢の実現可能性ではない
この授業で注意したいのは、児童の夢が現実的かどうかを、大人が評価しないことです。
また、家庭が将来の費用を負担できるかどうかを、児童に考えさせる授業でもありません。
家庭の収入や支払い能力を尋ねたり、費用の高い夢と低い夢を比べたりすれば、児童が家庭の事情を背負ってしまうおそれがあります。
先生が見るのは、次のような学びの過程です。
- 必要な準備を時期ごとに整理できたか
- 学び、経験、費用の関係を考えられたか
- 見つけた情報の条件や出典を確かめようとしたか
- 分からないことを、次の問いに変えられたか
- 小学生の今からできる行動を考えられたか
正確な学費や、夢が実現する確率を答えられることが評価の中心ではありません。
夢までの道のりを調べ、必要な準備を自分なりに考えられたことを大切にします。
年表づくりを支える先生の問いかけ
六つの時期が並んだ年表を前にすると、すべての欄を順番に埋めようとして、手が止まる児童もいます。
その場合は、最初から順番に書く必要はありません。
まず「小学生の今」と「仕事につく時」を考え、その間を少しずつつないでいく方法があります。
先生や講師は、答えを教える代わりに、次のような問いを返せます。
- それは、いつ必要になりますか
- 何のために必要なお金ですか
- その資格や学校は、必ず必要ですか
- 別の進み方もありますか
- 今は分からないことは何ですか
- その情報は、どこで見つけましたか
- 小学生の今から始められることはありますか
例えば、将来必要になる費用だけが書かれていたら、「その前に、どのような勉強や経験が必要ですか」と問いかけます。
反対に、学校や資格だけが書かれていたら、「それはいつ必要ですか」「どのようなお金がかかりますか」と尋ねます。
年表の空欄をすべて埋めることより、児童が情報同士のつながりに気づき、新しい問いを持つことが大切です。
夢と費用を年表にする三つのポイント
今回の実践から、キャリア教育と金融教育をつなぐ年表づくりのポイントを、三つに整理します。
費用を「時期」と「目的」に分ける
大きな総額だけで判断せず、いつ、何のために必要になるのかを整理します。
費用を時間軸に置くことで、その前に必要な勉強や経験、相談、追加の調査も見えてきます。
「まだ分からない」と複数の進み方を残す
年表を一つの正解にせず、調査や成長に合わせて書き換えられるものにします。
分からない項目があっても構いません。別の進み方が見つかったら、選択肢として書き加えます。
最後は「今からできること」へ戻す
将来必要になるお金を知るだけで終わらず、今日から始められる学びや経験につなげます。
遠い将来の夢を、小学生の今の生活へ戻すことで、職業調べが自分自身の学びになります。
まとめ——年表は、夢を判定する表ではなく、準備を考える下書き
「お金がかかる」と分かったことは、夢から遠ざかったという意味ではありません。
いつ、何のために必要なのかを分けて考えれば、これから調べることや、今から準備できることが見えてきます。別の進み方を探したり、家族や先生など周囲の人へ相談したりする必要性にも気づけます。
もちろん、年表を作っただけで、進学や費用に関する課題がなくなるわけではありません。
それでも、一つの検索結果や大きな金額だけを見て、小学生の段階で可能性を閉じる必要はありません。
年表は、将来を一つに決めるための計画表ではありません。
夢と今の自分との間にある、学び、経験、時間、お金を見えるようにし、次の一歩を考えるための下書きです。
キャリア教育と金融教育を組み合わせた出前授業をご検討の先生は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。学校で取り組んでいる学習内容や、児童の関心に合わせて、調査や年表づくりの進め方を一緒に考えます。

