「ジュースを買ったお金は、その後どこへ行くのでしょうか?」
「ゲームに課金したお金は、誰の仕事につながっているのでしょうか?」
お金を使えば、財布の中のお金や画面に表示された残高は減ります。そのため、お金を使うことは、「自分のお金がなくなること」と捉えられがちです。
しかし、支払ったお金は、その場で消えてしまうわけではありません。
商品を作る人、運ぶ人、売る人。サービスを企画する人、動かす人、守る人。さまざまな仕事へつながっていきます。
今回の小学校6年生向けの出前授業では、ジュースとゲーム課金という身近な例から、支払ったお金の先にある仕事を考えました。
なぜ「ジュース」と「ゲーム課金」を並べたのか
ジュースとゲーム課金は、どちらも児童にとって身近なお金の使い方です。
ただし、お金を支払ったあとに受け取るものは大きく異なります。
ジュースは、ペットボトルや缶に入った商品が手元に残ります。誰かが作り、お店まで運び、販売していることも比較的想像しやすいでしょう。
一方、ゲーム課金は画面上で完結します。
キャラクターやアイテム、追加機能などを利用できるようになりますが、その向こう側で働いている人の姿は見えません。
そこで、形のある商品と形の見えにくいサービスを並べて考えることにしました。
一見まったく違う2つのお金の使い方にも、共通していることがあります。
それは、どちらの先にも、商品やサービスを届ける人たちの仕事があることです。
ジュースから「見える仕事」をたどる
まずは、ジュースが自分の手元に届くまでを考えます。
ジュースを販売している人だけでなく、その前には、さまざまな人が関わっています。
- 原材料を作る人
- 工場でジュースを作る人
- 容器やラベルを用意する人
- お店まで運ぶ人
- お店で管理し、販売する人
一本のジュースからでも、いくつもの仕事を見つけることができます。
ただし、関係する仕事をたくさん挙げることが、この授業の目的ではありません。
もう一歩先まで考えます。
ジュースは、誰のどのような困りごとを助けているのでしょうか。
例えば、ジュースは、のどが渇いた人を助けています。
購入した人はお金を支払い、その代わりに飲み物を受け取ります。商品を届けた側は、飲み物を必要としている人に価値を提供します。
仕事を、単に「商品を作って売ること」ではなく、「誰かの困りごとを助けること」として見ると、その仕事が社会の中で果たしている役割も見えてきます。
ゲーム課金から「見えない仕事」をたどる
次に取り上げたのが、ゲーム課金です。
画面上のアイテムや機能だけを見ても、その先にどのような仕事があるのかは、すぐには分かりません。
しかし、ゲームが作られ、利用者が遊び続けられる状態を保つためには、さまざまな人が働いています。
- ゲームを企画する人
- プログラムを作る人
- キャラクターや背景を描く人
- 音楽や効果音を作る人
- サーバーやシステムを守る人
形のある商品が届かなくても、そこには仕事があります。
ゲームは、遊ぶ人に「楽しい時間」を届けています。
もちろん、ゲームへの課金については、使いすぎや保護者とのルールを考えることも大切です。
ただ、今回の授業では、ゲーム課金が良いか悪いかを判断することを目的にはしませんでした。
まずは、自分が何にお金を支払い、その代わりにどのような価値を受け取っているのか。そして、そのサービスを届けるために誰が働いているのかを考えます。
身近なゲームから考えることで、画面の向こう側にも多くの仕事があることに気づけます。

3つの欄で「お金の先」を見えるようにする
授業では、ワークシートを使って、お金と仕事のつながりを整理しました。

記入するのは、次の3つです。
- 買ったもの・使ったサービス
- 関わっている人・仕事
- 社会へのつながり・「ありがとう」
ジュースなら、次のようにつながります。
ジュースを買う
→作る人、運ぶ人、売る人が関わる
→のどが渇いた人を助ける
ゲームなら、次のように考えられます。
ゲームにお金を使う
→ゲームを作る人、絵や音楽を作る人、システムを守る人が関わる
→遊ぶ人に楽しい時間を届ける
この3つを順番に考えることで、「お金を使った」という出来事が、誰かの仕事や社会の中で生まれている価値へとつながっていきます。
ほかにも、ノートやスポーツ用品など、児童が自分の身近な商品やサービスに置き換えて考えることができます。
すべての欄を詳しく埋める必要はありません。
大切なのは、買い物の向こう側にいる人を想像し、「これは誰の仕事につながっているのだろう」と考えることです。
「買い物は、安ければいい?」と問いを広げる
支払ったお金の先にある仕事を考えたあと、もう一つ問いを加えました。

買い物は、安ければいいのでしょうか。
安く買えることは、家計の負担を軽くしてくれます。限られたお金を大切に使ううえでも、価格は重要な判断材料です。
一方で、商品の価格の先には、材料を作る人、商品を作る人、運ぶ人、売る人などの仕事があります。
安い商品は悪く、高い商品は良い、という単純な話ではありません。
価格だけでなく、次のようなことにも目を向けられます。
- 誰が作っているのか
- どのように作られているのか
- 自分が支払ったお金は、誰の仕事を支えるのか
- 自分は何を大切にして選びたいのか
買い物は、自分の欲しいものを手に入れるだけではありません。
商品やサービスを選び、お金を支払うことは、その向こう側にある仕事を支えることにもつながります。
SDGsを独立した知識として加えなくても、「誰が、どのように作っているのか」という問いの中に、社会や未来について考える視点を含めることができます。
正解を当てる授業にしない
この授業で目指したのは、商品の流通経路やゲーム業界の仕事を、正確に暗記することではありません。
実際には、一つの商品やサービスに、さらに多くの企業や仕事が関わっています。また、支払った金額が、そのまま一人の給料になるわけでもありません。
小学生向けの授業では、詳しい会計や流通の仕組みまで扱わず、買い物が企業の活動や人の仕事を支えているという大きな流れを捉えます。
児童が考えに迷ったときは、次のように問いを分けることができます。
「これは、誰が作ったのだろう?」
「自分のところへ届くまでに、誰が関わったのだろう?」
「使い続けられるように、誰が支えているのだろう?」
「買った人は、どのように助かったのだろう?」
関係する仕事を一つ見つけるだけでも、買い物の見え方は変わります。
答えを教えて終わるのではなく、これまで見えていなかった仕事を一緒に探すことが大切です。
お金が減った先に、誰かの仕事がある
ジュースを買っても、ゲームに課金しても、自分が持っているお金は減ります。
しかし、お金はそこで消えてしまうわけではありません。
商品やサービスを提供する側の売上となり、材料を用意すること、商品を作ること、運ぶこと、システムを動かすことなど、さまざまな仕事を支えていきます。
そして、購入した側には、飲み物や楽しい時間などの価値が届きます。
お金を支払う
→誰かの仕事につながる
→商品やサービスが届く
→「助かった」「うれしい」「楽しい」が生まれる
この流れを、授業では「お金は『ありがとう』をつなぐ道具」と表現しました。
金融教育は、貯金の方法やお金の制度を教えることだけではありません。
身近な買い物をきっかけに、商品やサービスの向こう側にいる人を想像し、仕事と社会のつながりを考えることもできます。
これからお金を使うとき、
「これは、誰の仕事につながっているのだろう?」
と少し考えてみる。
その小さな問いが、普段の買い物だけでなく、仕事や未来の社会を見る視点にもつながっていくと感じました。

