「GDP」という言葉、何となく耳にしているけれど、生徒たちにシンプルに説明するのは少し難しいですよね?
この記事では、社会科の授業で副教材として使えるように、GDPの基本を中学生・高校生でも理解できる形で整理しました。中学3年生で初めて学習するGDPについて、一目で理解できるように表現を簡素化しています。なお、図解については『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』を参考にしています。
GDPとは?基本のかたち

GDP(国内総生産)とは、国全体で1年間に生み出された価値の合計を指します。
たとえば、100円のパンを買ったとき、そのお金は「消費者の支出」であり、「お店の収入」であり、「お店が生産した価値」にもなり、GDPはいずれも100円になります。
GDP=消費者の支出=お店の収入=お店が生産した価値=100円
GDPを構成する3つの要素
GDPは、以下の3つの部門(セクター)から構成されています。
- 民間セクター(家計や企業の支出)
家庭が物やサービスを買ったり、企業が設備を投資したりします。 - 公共セクター(政府の支出)
道路の建設や学校の運営など、国の支出が含まれます。 - 外国セクター(輸出入)
他国との貿易で得た利益や、他国からの支出が加わります。
この3つを合計したものがGDPです。図解すると、以下のとおりです。

民間セクターには、家計と企業が含まれます。
たとえば、企業が工場を建てたり、設備を購入したりすることが「企業の支出」にあたります。
いっぽうで、政府は財政支出として、道路や上下水道の整備、公務員への給与支払いなどを行っています。これらの支出が積み重なり、国全体の支出、つまり GDP を構成します。
個人の所得についても触れておきましょう。
所得(給与の支給額)から社会保険料や税金を引いた「可処分所得」(手取り額)は、主に次の2つに分けられます。
- 消費
- 貯蓄・投資
このうち、「消費」がGDPに算入されます。
いっぽう、政府の財政支出は「税金」や「国債・地方債」といった借金で賄われています。

GDPを増やすには、以下の項目が増えることが必要です。
- 個人の消費が増える
- 企業が設備投資を増やす
- 政府が財政支出を増やす
これらを実現するためには、経済の仕組みや政府の政策が大きな役割を果たすのです。
GDPとは1年間で増えた国家の富
GDPは常に変化しています。
わかりやすく説明するために、お風呂をイメージしてみましょう。お風呂の蛇口から新しい水がどんどん注がれますが、同時に排水口からも水が流れ出ていきますよね。
このとき、「1年間で新しく溜まった水」が年間のGDPに相当します。

GDPに含まれないものとは
実際にお金や商品が動いても、GDPには以下のような取引は含まれません。知っておくと、理解がさらに深まります。
【金融取引】
株式や投資信託などの取引が該当します。単なる所有権の移転によるため含まれません。
ただし、売買時の手数料は、GDPに算入されます。
【社会保障、補助金】
税の分配であるため含まれません。
補助金を使って新たなサービスや製品を生み出すと、GDPに算入されます。
【中古品、中古住宅】
過去にGDPへ算入されており、重複を避けるため含まれません。
中古住宅を取引したときの仲介手数料は、GDPへ算入します。
【中間生産物】
最終価格にすべて含まれるため、完成品を作るために使われた原材料、燃料などはGDPに含まれません。
名目GDPと実質GDPの違い
ニュースなどでよく聞く「名目GDP」と「実質GDP」の違いを確認しておきましょう。
【名目GDP】
物価変動の影響をそのまま反映しているGDP。
【実質GDP】
年ごとの比較をするため、物価変動の影響を取り除いたGDP。
たとえば、パンの価格が100円から120円に値上がりした場合、名目GDPは増えますが、実質GDPは変わらないことがあります。
GDPだけでは測れない「暮らしの質」
GDPは経済の規模を示す重要な指標ですが、「暮らしの質」や「幸せ」を測るものではありません。1968 年、アメリカ第35第大統領のロバート・ケネディは、カンザス大学での講演で、こう述べています。
「私たちは余りにも長い間、物質的な蓄積を、人が持つ素晴らしさや共同体の持つ価値よりもはるかに優先させてきた。(省略)GNP には人生を価値あるものにするものは一つも入っていない」
引用元:Kennedy, R.(1968), “Remarks at the University of Kansas”.
ロバート・ケネディの言葉を引用して、『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』の筆者は、こう伝えています。生徒たちにGDPを教えるときは、「経済の規模」だけでなく「暮らしの質」や環境、社会的な幸福についても考えるきっかけを与えると良いでしょう。
私たちはあまりにも長い間、コミュニティの卓越性とコミュニティの価値を単なる物質的なものの蓄積で決めてきた。そしてこの基準に頼りすぎてきた。アメリカに対する評価ということになっている国民総生産という数字には、大気汚染、タバコ広告、交通事故の犠牲者を運ぶ救急車も含まれている。防犯のための頑丈な鍵や、その鍵を破った人たちを閉じ込める牢屋も含まれている。森林破壊や、急激な都市化による美しい自然の消滅も含まれている。ナパーム弾、核弾頭、暴力を鎮圧するための警察の装甲車も含まれている。ホイットマンが乱射事件を起こしたライフルも、スペックが何人もの看護学生を刺し殺したナイフも、子供たちにおもちゃを売るために暴力を美化しているテレビ番組も含まれている。
引用元:アメリカの高校生が学んでいる経済の教室
本書は『アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書』とのシリーズ作品です。
経済の基本を学びたい高校生や大学生、社会人、もしくは学校の教科書以外に解説書が必要な指導者向けの内容となっていました。
まとめ
GDPは経済を知るための基本的な指標ですが、それを超えて「どんな社会を目指したいか」を考える手段として使えます。この内容を授業で活用し、生徒たちがより広い視点で社会を捉える力を育んでくださいね。